昨年まで、蒲田にある日本工学院専門学校で、講師として学生たちと関わっていた。卒業生のなかには、企業に就職せずフリーランスとして活動を続ける人も少なからずいる。彼ら彼女らは、漫画家・イラストレーター・カメラマン・役者・声優・ミュージシャン・アニメーターなど、なりたい自分に近づくためにアルバイトなどのいわゆる非正規の仕事をしながらコツコツと日々努力を重ねている。
そして、これまでに自らが掲げた夢を掴んだ人たちを数多くみてきた。例えば卒業生の一人として日雇いの運送屋で生活費を稼ぎながら、週刊少年ジャンプ編集者に見出されて『3年奇面組』でデビューし、漫画家として成功した新沢基栄。さらに、いくつものアルバイトをしながら、いまや舞台女優として活躍している阿知波悟美のように。
アートやカルチャーに携わる人たちは、年収1千万円以下(知りうる限り、アルバイトをしながら、あるいは助手として自分の夢のため働いている人たちの多くは概ね年収200万円前後)で、消費税が非課税の免税事業者であることが多い。しかし、来年10月から始まるインボイス制度は、こうしたフリーランスの人たちをターゲットにし、容赦なく(財務省の試算によれば)総額2480億円の消費税を搾り取る税制である。
しかも、インボイス(的確請求書)制度の取り立ての仕組みは実に狡猾である。商品やサービスごとに消費税と税率を記載した請求書を取り交わし、インボイスがなければ仕事を依頼した側は納税額から仕入れで払った消費税を差し引くことが出来なくなる。結果として取引先から、売上高1千万円以下のこれまで免税だった人たちは、インボイスを発行できる課税業者になるよう言われる。当然、課税業者となれば納税と面倒な課税事務という重い負担がのしかかる。まるでクラスのいじめを仕切るボスが、自分では手を出さず、手下を使って(もし、その手下がやりたくないと言ったらその手下を痛い目に合わせる)対象の子を踏んだり蹴ったりさせる手口ではないか。
2021年3月の一般社団法人芸術と創造による『諸外国における文化政策等の比較調査研究事業』によれば、政府の文化支出額では、日本は対象6カ国(イギリス・アメリカ・ドイツ・フランス・韓国・日本)中の最下位。国民1人あたりの文化予算では、913円。これも民間の寄付税制が圧倒的に手厚い米国を除いた5ヶ国の最下位で、4位のドイツと比べても3割弱。韓国の実に8分の1。国家予算に占める文化予算の割合でいうと日本は0.11%で、韓国との差は更に開いて11倍。
この国は、文化的な支援をするどころか、カルチャーやアートを志す人々の少ない収入から、さらにむしり取ることをしようとしている。インボイス導入という制度変更は、当然のことだが人の動き方を変容し規定するということでもある。制度が適用される人々にとっても、そしてフリーランスの方々の力を借りてビジネスを組立てている僕らのような零細企業にとっても、大きな負担と不安を強いられるということだ。さらにさらに、軍備のための増税も強行しようとしている。政治家・政府に対し、冷たく青白き怒りがこみ上げてくる。