第1026号『古きに学ぶ』

こんな日にやめてくれ!と、叫びたい気持ちになった。2024年の幕開け元日、能登半島で最大震度7の地震が起きた。言祝ぐ日に、人々の暮らしを一変させた。

さかのぼること800年余。鎌倉時代に天変地異について記された書物がある。このなかで、1185年に京都を襲った文治地震について、「山は崩れて河を埋(うず)み、海は傾きて陸地をひたせり。土裂けて水湧き出(い)で、巌(いわお)割れて谷にまろび入る。」と、生々しく記されている。この書物とは、「ゆく河のながれは絶えずして、しかも、もとの水にあらず。よどみに浮かぶうたかたは、かつ消え、かつむすびて、久しくとどまりたるためしなし。世の中にある人と栖(すみか)と、またかくのごとし。」の書き出だしで知られる、鴨長明の『方丈記』である。

1177年、安元の大火。1180年、治承の辻風(竜巻)。1180年 、福原への遷都。1181年、養和の飢饉。1185年、元暦の大地震。地震や飢饉(ききん)。そして、保元の乱。平治の乱。源平の大動乱など、貴族政治から武家政治へと大転換した時代。これらの一つ一つをつぶさに見て、災害と時代の変化と人びとの様子を簡潔且つ、克明に記録したドキュメントの書である。比べてみれば、今また似たような状況を呈している。2011年、東北地方太平洋沖地震。2016年、熊本地震。2020年から新型コロナウイルス感染。2023年、地球沸騰化。2024年、能登半島地震。安倍元首相暗殺。政治不信を加速させるような安倍派と二階派の裏金不正キックバック問題。国力の低下、少子高齢化、格差の拡大、異常とも思える株価など、随所に不穏な動向を感じる。

中世の民は、どんな心持ちで災害や困難に立ち向かい、乗り越え、どんな振舞いをしていたのか。そして、僕たちはどんな眼差しと言葉を持てばよいのか。多くの人が彷徨しているいま、鴨長明の『方丈記』は、なにかしらの指針になるやもしれない。

歴史の転換点にあって、その只中にいる人びとの心の有り様が、古今東西、然う然う変わる筈はない。だからこそ、先達の教えに耳を傾けることも無駄ではないだろう。古典は、今を生きる僕たちの指針として甦るはずだから。

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