第1043号『「いやだ」の力』

先月末、会計事務所の方とお会いし22期決算書に押印した。毎年恒例ではあるが、僕にとってそれは身の引き締まる時間である。

気がつけば、22年もの長きに亘り「ファンサイト有限会社」という小舟を難破させることなく、なんとか航海を続けてきた。それはすなわち、クライアント、協力会社と仕事仲間、そして社員メンバーと、多くの方々からの支援応援があってのこと。そのことに対する感謝の気持ちを確認することである。そして、創業時に決めた「いやだ」という逆から見る力の再確認をした。

赤ちゃんが最初に発する自己表現は、「いやいや」から始まるという。お腹が空いて「いやだ」。お尻がウンチで気持ち悪くて「いやだ」。遊んでくれなきゃ「いやだ」・・・。これら、たくさんの「いやいや」は、自分を守り、より気持ちのよい状態にするための防衛本能なのだ。

会社を始めるとき、知人の経営者から「事業計画書をつくらないと」とアドバイスされた。しかし、そもそもその事業計画書なるものがよく分かっていなかった。それでも、分からないなりに、書いてみた。短期計画と中長期事業計画。経営目標と5カ年の数字計画と目標達成へのビジョン。売上額、粗利額、人件費、営業利益など・・・。書いてはみたが、なんだかしっくりとこない。理想とする目標を掲げ、それを計画書に反映してみることは大切である。でも、なんだか他人事にように感じてしまった。要するに自分の腑(はら)に落ちてこなかった。

会社を始めると覚悟は決めたものの、正直なところ高邁な理想があるわけでもなければ、明確な目標があるわけでもない。であれば、せめて、やりたくないことをはっきりさせようと思った。赤ちゃんのように「いやだ」ということばを発してみようと閃いた。そして、思いつくままに、「いやだ」をノートに書き出してみた。すぐに7,8項目ほど並んだ。不思議なことに、事業計画書をまとめていた時のもやもやが、スッキリとした。

まるで「ルビンの壷」のように、「図」と「地」の「地」は意味を持たず背景的に知覚される部分であり、「図」は意味を持って浮かび上がって見える。例えば、雪に覆われた「図」としての真っ白な山と、「地」としての降りしきる雪の関係では、形の知覚は生じない。つまり、人は「地」と「図」の関係を認知することによって、ものの有り様を把握することができると、デンマークの心理学者ルビンは説いている。

「地」と「図」をはっきりさせる。「YES」と「NO」を明確にする。「すること」と「しないこと」を逡巡しない。そうして、「いやだ」を考えてみた。

ファンサイトの3つの「いやだ」。
・いやな会社や、いやな人との仕事はいやだ。
・スタッフや、クライアントにへつらうのはいやだ。
・無料でアドバイスするのはいやだ。

我ながら、ずいぶんと不遜な言葉だなとおもいながらも、しばらく眺めていた。すると不思議なことに「いやだ」の裏返しの、「したい」ことが見えてきた。

・いやな会社や、いやな人との仕事はいやだ。→ 仕事を通して尊敬し合える関係を築きたい。
・スタッフや、クライアントにへつらうのはいやだ。→ スタッフや、クライアントと共に成長したい。
・無料でアドバイスするのはいやだ。→ 十分な利益を共有したい。

たった3つの「いやだ」という逆説で「したい」ことが、(まるで冬の抜けるような青空を背に、真っ白な雪山の姿のように)くっきりと見えた。

23期、今期も皆様のご支援ご鞭撻のほど、よろしくお願いします。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です