第1073号『我に弾丸を!』

横浜黄金町にある映画館「シネマ・J&B(ジャック&ベティ)」から、封書が送られてきた。なんだろうと封を切ると中にTシャツと手紙が入っていた。ほぼ忘れかけていたが、2023年12月に支援したクラウドファンディングの返礼品だった。

2023年12月15日に配信した、ファンサイト通信第1023号『がんばれ、J&B!』で書いたものを一部抜粋して記載する。

ーここから
「シネマ・ジャック&ベティ」が、いま苦境に立っている。状況は、2020年のコロナ禍で一変した。緊急事態宣言により、2ヶ月の休館を余儀なくされた。さらに、追い討ちをかけるように、30年以上を経過した劇場建物の老朽化。そのダメージを受け、漏水が発生し、エスカレーターの故障と館内の損傷とその修繕に、多額の修繕費が発生。併せて、空調や衛生設備のメンテナンスへの出費もかさんだ。また、デジタルプロジェクターの買い替え時期も迫っている。フィルム映写機と違い、このデジタルプロジェクターは部品などの問題で使用できる期間が短い。すでに、10年を超えているプロジェクターの更新も待った無しという状態。コロナ後、観客数改善の兆しはあるものの、完全には戻ることなく、現在もコロナ以前の80%程度の来場者数にとどまっている。加えて、コロナ禍で猶予されていた税金、社会保険料、光熱費などの支払いも、大きな金額が残ってしまったという。少しずつの支払いを目指してはいるが、役所からの督促は厳しさを増すばかり。このままでは、いつ営業ができなくなってもおかしくない切羽詰まった状況に至った。そして今回、窮余の策としてクラウドファウンディングをはじめたという。

この試みに妻と僕も僅かながら支援している。横浜の街にはジャックとベティが似合う、そして必要だ。がんばれ、J&B !。閉館待ったなしの横浜のミニシアター、<シネマ・ジャック&ベティ>にご支援のお願いです。
ーここまで。

送られてきたTシャツのデザインは、映画監督の林海象氏の手によるものである。監督の代表作、映画『私立探偵 濱マイク』をシネマ・J&B(ジャック&ベティ)でリバイバル上映したという縁で引き受けられたと聞く。

この映画の舞台となったのが、2005年2月18日に閉館した老舗映画館「横浜日劇」。J&Bとは目と鼻の先にあった。閉館後に、取り壊しの話が持ち上がったが、地元メディアの報道などで「横浜の象徴」としての価値が見直され、2005年12月からイベントスタジオとして営業を開始。その後、2006年5月には「日劇再生準備委員会」が設立され、映画館としての再生が模索されたが、耐震強度や空調設備の問題が解決できず、2007年4月の取り壊しが決定。解体を前に、3月17日~18日には最後の無料特別上映会と内覧会が開催された。最終上映作品は『ニュー・シネマ・パラダイス』、これをもって横浜日劇の歴史は幕を閉じた。その跡地にはマンションが建っている。

『私立探偵濱マイク』シリーズ第1弾『我が人生最悪の時』を、中学生だった倅と観たことを思い出した。この映画には、ちょっとしたトリックがあった。劇中で描かれている「濱マイク探偵事務所」が「横浜日劇」の中にあり、主演の永瀬正敏は、いままさに観客である僕たちが観ている映画館を出入りするという、入れ子構造の作りでなんとも幻覚的な面白さがあった。

映画帰り、お腹が空き二人で関内の中華料理店に入った。気がつけば、2時間以上もいま観てきたばかりの映画『私立探偵濱マイク』についての話題で盛り上がった。演出・シナリオ・役者・照明・音楽・美術のそれぞれについて。そして、それは倅の、映画に対する、熱くて冷静な想いを強く感じた瞬間だった。

送られてきたTシャツに、林海象監督のアジテーションメッセージが記されている。

「映画は人の心を撃つ。我に弾丸を!」と。

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