クリント・イーストウッド監督主演『グラン・トリノ』を観た。
タイトルにもなったグラン・トリノは、アメ車全盛時代の72年にラインナップされたフォードのマッスルカーだ。
熟練した技術を持つ男たちの“ものづくり”のパワーが漂い、アメリカの礎となった時代の象徴として〈アメリカの魂〉と称される名車だ。
主人公、ウォルト・コワルスキーは元フォード社の組立工として、この名車の組立てに関わり、自らもこのビンテージカーを1台所有している70代の頑固な老人である。
ベランダの椅子に腰掛けタバコを燻らせ、ビールを飲みながらピカピカに磨きあげたグラン・トリノを眺めるのが至福の時だ。
これまで、それなりに頑張ってきた。
朝鮮戦争ではアメリカ国の名誉を守るために従軍し、アメリカ産業の象徴でもあった車づくりを職業とし、家族と家と地域を守ってきた。
しかし、いま、目の前に広がる風景や出来事はあまりに無惨なものでしかない。
妻の葬儀でヘソだしの衣装で参列している孫娘も、トヨタ車のセールスで好調に稼いでいる息子も、近所に多く住むアジア系移民も、その、なにもかもが気に食わない。
しかし、ある小さな出来事から隣に引っ越してきたモン族(東南アジアに分布する民族でベトナム戦争時、アメリカに亡命した移民)の若者タオ、その姉スーと次第に親しくなる。
あからさまに人種偏見を口にする頑迷なままの老人が、しだいに変化していく様がなんとも心地良い。
そして、タオとスーが同じモン族の不良によって窮地に追いやられたとき、老人の用意した答えは・・・。
周囲数キロ内で起きた小さな出来事、その積み重ねの中に、アメリカがいま抱える問題の全てがある。
クリント・イーストウッド監督は、この『グラン・トリノ』で、きわめて小さな物語から大きな感動を紡ぎ出すことに成功している。
間違いなく、今年度、屈指の一本だ。
映画を観終わって、ふと黒澤監督の『生きる』が脳裏に浮かんだ。
1件のフィードバック
川村様
先日は有難うございます。
お名刺を頂戴していませんでしたので、
アドレス等がわからず、
このような形で失礼致します。
映画の話し、ブログに載ってますね。
早速、観に行きます!!
今後も宣しくお願い申し上げます。