第711号『いぜなトライアスロン大会顛末記-2』

img_8006s【ゴールを喜ぶ】

伊是名(いぜな)島は第2代琉球王、尚円(しょうえん)王誕生の地である。
一昨年暮れ、伊是名村役場が中心となり、尚円生誕600年祭の記念行事のプロジェ
クトに関わることになった。

偶然とはいえ、ご縁を感じた。
20数年前トライアスロンでこの地を訪れた懐かしさもあり、できれば再び大会に
参加してみたいと思った。
妻もこの機会を後押ししてくれた。
そして意を決し、今年5月「第29回いぜな88トライアスロン大会」への申し込み
をした。
倅も賛同し、申し込んでくれた。
あっという間に5ヶ月が過ぎ、10月30日遂にスタートラインに立つ日を迎えた。

4時起床。
あたりは真っ暗。
4時30分朝食(何を食べたのかほとんど記憶がない)。
5時、前夜用意したビニールバッグ(ウェットスーツ・ゴーグル・スイムキャ
ップなどを詰めた)を背負い、真っ暗な道をスイムスタート会場へと向かう。
点在している島の民宿から、アスリートたちが続々とスイム会場へと自転車を
走らせる。
10分ほどすると、煌々と照らされたスイム会場の灯りが目に飛び込んできた。
まるで、蛍光灯に吸い寄せられる虫のように出場する621名のトライアスリート
が集結する。
6時10分スイム会場に到着。
ザワザワとした会場ではあるが、レース前の何とも言えない張り詰めた空気に、
ゾクゾクと身震いした。

スイムは1キロのコースを2往復の2キロ。
そして、スイムからバイクへ移動。
バイクは、島を5周する66キロ。
バイクを終えれば、最後のラン。
ランは島の中央部を横断する。
10キロ走り、その同じ道を10キロ戻る、20キロ。
総計88キロのコースを7時間以内での完走を目指す。

6時30分、スイムの試泳が始まる。
まだ、日が出きっていない海にソロリと入る。
なんとも、神聖な気分になる。
いつもの練習通り、ウェットスーツにたっぷりと海水を入れ、その海水を抜く。
こうして、スーツを身体に密着させる。
海に潜り、顔と頭を濡らす。
そして、きっちりとスイムキャップを被り、ゴーグルを付ける。
次に、身体を仰向けに浮かべる。
空をみれば、濃い青から赤へのグラデーションへと輝きはじめている。
沖に向かって、右から左への潮の流れも感じる。
7時10分前、一旦、砂浜に上がりスタートの合図を待つ。

7時、静寂の後の喧騒。
スタートの合図とともに621名のトライアスリートが、一斉に泳ぎだす。
スイムの苦手なボクは、最後方右手から少し遅れて泳ぎだした。
スイムの制限時間は1時間30分。
いつも通りなら、なんの問題もなくクリアできるはず。
300メールほど泳いだところで、いままでになく速く強い潮の流れを感じた。
泳げども泳げども流され、前に進まない。
1周目は、30分で通過、2周目は32分もかかり1時間02分であがった。
もともとスイムは1時間を目標にしていたので、まずまずのタイムである。

次は、スイムからバイクへの移動。
バイクを置いている場所まで小走りに走り、ゴーグルとキャプをとり、ウェットスー
ツを脱ぎ、タオルで軽く海水を拭く。
ウェットスーツの下には予め、トライスーツ(スイム・バイク・ラン兼用のスポーツ
ウェア)を着用しているので、バイク用ヘルメットとサングラスをかけ、バイクスタ
ート地点から漕ぎ出す。

1周目は、バイクコースを確認するように。
2周目と3周目は、伊是名島の景色を楽しみながら。
4週目は、島の人々の温かい応援を感じて。
そして、5週目は島風を受けながら。

バイクは2時間45分と想定していたが、2時間42分55秒と予想タイムより2分ほど早く
終えた。
そして、最後のラン。

バイクラックにバイクを置き、ヘルメットをとり、バイクシューズを脱ぎ、ランシュ
ーズに履き替える。
そして、暑さ対策に白いキャップを被り、走りだす。
66キロバイクを漕いだ後のランである。
足が、どんな反応をするか、最初の数歩でその状態はだいたい分かる。
どうやら、しばらくは走ることを許してくれそうだ。

2キロほどの地点で最初の難関である急な上り坂に差し掛かる。
この坂の途中にある民宿の人たちからの熱い応援と、大音量のロックの音に後押しさ
れ、なんとか乗り越えた。
この大会は応援が素晴らしい。
そして、登りきったところに島の中学校がある。
その塀には、おそらく島の人たちが書いただあろう様々な応援メッセージが掲げられ
ている。
「諦めたらそこでレースは終わる。頑張れ」
「その先を目指して走れ!」
「思いはひとつ、ゴールを目指せ!」

そこから、しばらく平坦な道を走る。
3キロ地点で、はやくも先頭ランナーとすれ違う。
すでに、ここで2時間以上の差。
次々と速い選手たちとすれ違う。
ひとり、ふたりと数え、13番目に倅の姿が見えた。
一言二言、ことばを交わす。
そして、ハイタッチ。
バチンという肉厚な音がした。

ここからは、我慢の連続だった。
10キロの上り下り(島とは海に隆起した山の頂なんだと納得)をなんとか走る。
そして、折り返し。
同じ道を引き返す、10キロ。
あと、残り10キロ・・・か。
制限時間以内にゴールできるのか。
そんな不安もよぎったが、ここからは急がず焦らず、上りは歩き、下りは走ると
いう具合に歩を進めた。

気がつけば、行きでの最大の難関だった坂にいる。
つまり、あとは下っていくだけだ。
ここで、時間以内にゴールできることをほぼ確信した。
そして、島の中学校の塀に掲げられたメッセージボードのひとつが目に飛び込ん
できた。

「自分は自分を裏切らない!」

ボクにとって、このレースのためにしてきたことの全てが、この一言で表現して
いるように感じた。

ラン、2時間42分16秒。
総合計タイム、6時間27分11秒でフィニッシュ。

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