第736号『街場の達人たち』

【理髪店の看板】

トライアスロンの練習で汗をかくことも多く、なるべく髪の毛は短く整えて
いる。
そんな理由もあり、ほぼ月1回のペースで、神田にある理髪店へ行く。

この店を利用し始めたのは16年前。
会社を起業して間もなくのころ、事務所から近いという理由で、たまたま入
った。

6人ほどの理容師さんがいて、来客順に対応するというカタチ(いまもこの
仕組は変わっていない)で営業していた。
髪を切り、洗い、髭を剃り、全てを整えて1550円(5年ほど前に値上がりし
て、いまは1700円、これなら月1回でも通えるでしょう)だった。

こうして通っているうちに、6人の理容師さん中の一人、Eさんの対応や髪の
切り方が、なぜかしっくりくる。
どうしてそう感じたのか、いまでもその理由はわからないが、今では(この
店は予約制はなく先着順なので、先客のある時は待つのだが)わがままを言
ってEさんを指名し、お願いしている。

最近、気がついたのだか、ボクはどうやら(自分にとっての)街場の達人や
目利きたちを探している。

例えば、髪を切るなら断然Eさん。
例えば、酒ならば近所の酒屋のKさんの推奨したものを選び、肉ならTさん、
家の補修ならMくんに頼る。
例えば、トライアスロンのコーチングならTさんに、全幅の信頼を寄せてい
る。
例えば、保険のことなら会計士でもあるHさんの助言を採用することが多い。

こうして、自分の身の回りに関わる事柄を達人や目利きの目を通して、判断
することが多い。
もちろん、選択肢が多いほうがいいとの見解を、否定するわけではないが、
ボクはこの方法をあまり積極的に採用はしない。

なぜなら、これまで散々あれでもない、これでもないと迷った挙句、満足の
いく結果にたどり着いたということが稀だった。
ところが、信頼できる彼らの助言を頼りにすると、心地よく苛立ちも少なく
なる。
お互いに評価し、感謝し合えることで、さらに心地よい関係が生まれる。

結局、人は人を通してしか本来の豊かさを獲得することが出来ない、という
ことなのかも知れない。