第740号『上半期映画ベスト10』

【パンフレットとサントラ盤】

どんなことでも続けていれば、そこには何かしら想い(根本的な思索)のよ
うなものが芽生えてくる。
ボクは年間100本の映画(新旧あわせ、劇場だけではなくDVDも含んで)を観
ることをノルマにしている。
この習慣は、もうかれこれ30年は続いている。

映画好きということが1番の理由だが、世に溢れるコンテンツ群のなかにあっ
て、映画ほど多くの才能・時間・お金をおしげもなく使っているものはない。
そして、わずかな支出で豊かでお得な気分に浸ることができる。
さらに、映画を通して他国の生活や他者の人生を疑似体験することもできる。
シンプルであれ、複雑なものであれ、描かれたストーリーを通して、究極的
には精神的な共通項が通底していることを理解することができる。
つまり、ある種、人間としての原則や普遍性といったものの有り様を知るこ
とができる。

さて、月も替り7月になった。
今年も残り半分。
ここまで、半年で観た映画を振り返ってみる。

ノートの映画鑑賞記録欄に、観た月日・作品名・監督・俳優・評価など簡単
に記録している。
ボクの気まぐれ「上半期ベスト10」を発表してみたい。

1.『ラ・ラ・ランド』
デミアン・チャゼル監督作品

前作『セッション』の若き才能が、ミュージカルでもその天才ぶりを発揮。
デミアン・チャゼル監督は本作で第89回アカデミー賞、史上最年少で監督賞
受賞。
今年前半では、これが最高作。

2.『ロシュフォールの恋人たち』
ジャック・ドゥミ監督作品
ミッシェル・ルグラン音楽監督

デミアン・チャゼル監督がオマージュとして挙げた作品であり、随所に『ラ
・ラ・ランド』を彷彿とさせる場面と音楽が溢れる、フランスミュージカル
映画の傑作。
若き日のカトリーヌ・ドヌーヴとその実姉フランソワーズ・ドルレアックと
の唯一の共演も見どころ。

3.『ル・アーヴルの靴磨き』
アキ・カウルスマキ監督作品

『街のあかり』『浮き雲』など、数々の傑作を残すフィンランドが誇る巨匠。
この映画でも、アキ・カウルスマキらしい淡々とした日常を描きつつ、最後に
あり得ないようなビックサプライズ(奇跡)が用意されている。
映画とは、奇跡(こうなればいいなという妄想)を観るためにあるといっても
過言ではない。

4.『共食い』
青山真治監督作品

芥川賞受賞作家・田中慎弥による暴力と性を描いた芥川賞受賞作を、『ユリイ
カ』『東京公園』などの青山真治が映画化。
主演は、若手ではいま最も力のある菅田将暉。
脇を固めるのは光石研と田中裕子。
見応えのある作品に仕上がっている。

5.『ボーイズ・オン・ザ・ラン』
三浦大輔監督作品

花沢健吾原作の同名漫画を映画化した青春ドラマ。
岸田戯曲賞を受賞した「愛の渦」など演劇界で数々の問題作を発表してきた
劇団「ポツドール」を主宰する三浦大輔の初監督作品。
この後、映画作品としては『愛の渦』『何者』も手がけている。
主演は銀杏BOYZのボーカル峯田和伸。
不器用で痛い青春の日常を、見事なまでに体現した俳優峯田ならではの作品で
ある。

6.『TRASH!』
スティーヴン・ダルドリー監督作品

ゴミ山で暮らす最下層の3人の貧しい少年が、ある日、訳ありな財布を拾う。
ここから事件が始まり、絶望の街に奇跡が生まれる。
監督は『リトル・ダンサー』『愛を読むひと』(どちらも佳作である)のステ
ィーヴン・ダルドリー。
脚本を『ラブ・アクチュアリー』(幸せな気分になれる、ボクの大好きな作品
です)などロマコメの名手リチャード・カーティス。
間違いなく、面白い作品に仕上がっている。

7.『ライオン』
ガース・デイヴィス監督作品

実話にもとずいたドラマである。
幼少時にインドで迷子になり、オーストラリアで育った青年が Google Earth
を頼りに自分の家を捜す姿を追う。
メガホンを取るのは、テレビシリーズや短編などを手掛けてきたガース・デイ
ヴィス。
主演は『スラムドッグ$ミリオネア』『ライフ・オブ・パイ』(どちらも素晴
らしい作品だ)などインド系英国人のデヴ・パテル。
彼の洞察力ある演技が冴えている。

8.『ザ・コンサルタント』
ギャヴィン・オコナー監督作品

2011年にハリウッドのブラックリスト(日の目を見るべき優良脚本)に載って
以来、長らく映画化が模索されてきた本作。
『アルゴ』(監督および主演)でその才能を知らしめたベン・アフレックが、
複数の顔を持つアンチヒーローを演じるアクション映画。
表向き片田舎の会計士が、裏社会で壮絶なバトルを繰り広げる様子を痛快に描い
た作品である。
俳優として一歩先んじる盟友、マット・デイモン(ハーバード大学の同級生で、
『グッド・ウィル・ハンティング 旅立ち』で共同脚本家)の『ジェイソン・ボ
ーン』シリーズに対抗して、『ザ・コンサルタント』のシリーズ化を期待したい。

9.『ローガン』
ジェームス・マンゴールド監督作品

『X-MEN』の予告編を劇場で観た。
そして、『ローガン』がシリーズ最終作だと知った。
ボクはこれまで、このシリーズを観たことがなかった。
ただ今回、気になったのが老いを描いていたこと。
超金属の爪と超人的な治癒能力を持つ不老不死のヒーロー、ウルヴァリンが老
いて傷跡残る体で、ミュータントの未来の鍵を握る少女を守るべく戦う姿。
主演をヒュー・ジャックマンが演じ、監督を『ウルヴァリン:SAMURAI』など
のジェームズ・マンゴールドが担当。
能力を失ったウルヴァリンの衝撃の姿と壮絶なバトルを通して、老いとは何か
を考えてみた。

10.『メッセージ』
ドゥニ・ビルヌーブ監督作品

カナダの才気あふれる監督、ビルヌーブにとって初のSF映画。
なにより、彼の次回作『ブレードランナー 2049』の予習を兼ねての鑑賞の
意味あいもあった。
テッド・チャンの短編小説「あなたの人生の物語」を基にしたSFドラマ。
球体型宇宙船で地球に飛来した知的生命体との対話に挑む、女性言語学者の
姿を見つめる。
その女性言語学者を演じるのは『ザ・マスター』(天才、ポール・トース・
アンダーソン監督作品)でも芯のある役作りが光っていたエイミー・アダ
ムス。

さて、残り半年でどれだけ(何本)観ることができるか。
観ていない映画は、まだまだ山ほどある。