【明治おいしい牛乳】
先日、クライアントとの定例会議があった。
議題は毎回多岐にわたり、2時間を超えることも
しばしばある。
忌憚無く、言いたい事を許容していただけている
ので楽しい。
しかも、緊張感もありダレない。
商品は、スーパーマーケットやドラッグストアに
並ぶ食品だ。
そのパッケージが議題となった。
長い歴史(誰でも見たことのある)をもつ商品で
はあるが、一般的に言えば、コモディティ化(競
合する商品との品質や価格などでの比較が難しい)
したものの部類に入る。
さらに、売れなくなれば棚から撤退となる。
シビアな現実だ。
だからこそ、味の改良やパッケージデザインのリ
ニューアルに対する目線はおのずと厳しくなる。
商品の送り手(メーカー)からすれば、お客様に
お伝えしたい事柄(原材料・製造法・製品化への
想いなど)は山ほどある。
だから、店頭で商品を手に取っていただいた時、
パッケージ上にあれもこれもと情報を載せたくな
る。
しかし、これでは情報量過多で、かえって分かり
にくさを生む結果となる。
では、視覚的な情報量をどこまでどうやって減ら
すか。
これが一番重要になる。
一般的に、定番と言われる商品のデザインでは、
このこと(情報量)が上手く整理されていること
が多い。
コモディティ商品にして、定番中の定番「明治お
いしい牛乳」のデザインを手がけたアートディレ
クター佐藤卓氏(『塑する思考』新潮社)の(示
唆に富むと感じたので少し長いが)話を記す。
———-ここから
例えばスーパーマーケットだと、3メートル離れ
たところから商品群が目に入りますね。
その時どう見えるかを考えます。
さらに1メートルまで近づいた時にどう見えるか。
さらに商品を手に取った時にどういう情報が目に
入るかと考えます。
もの自体は何も変わりませんが、空間の中で人と
ものの関係は刻々と変化します。
そして、3メートル先から見た時は、白い牛乳パ
ックの上に青い帽子をかぶってるように見えるで
しょう。
そしてなんとなく名前が真ん中に1本見える。
ほぼその3点しか見えていないはずです。
1メートルまで近づいた時に初めて、「おいしい
牛乳」の文字が見えて、その後ろにコップに牛乳
を注ぐ写真が目に入ってくるでしょう。
写真はわざと薄くしています。
さらに手に取った時には裏側も見られますから、
どういう製法で作られているかなど、もっと細か
な情報を伝えられます。
そう考えると、パッケージの情報がレイヤーに分
けて整理できてくる。
逆に一つのレイヤーだけですべての情報を伝えよ
うとすると、どうしても面積が狭いパッケージデ
ザインはごちゃごちゃしてしまう。
つまり、遠くから見える部分が「構造」に相当す
る。
この構造がブランドの基幹と考えていいでしょう。
構造と意匠という概念は、パッケージの場合はと
ても重要で、とくにブランディングを考える時、
構造の部分を大きく変えるとブランドデザインに
ならない。
逆に意匠は変えていい。
———-ここまで
なるほどと腑に落ちた。
「構造」はいわば主語で「意匠」は述語。
そして文脈(レイヤー)として順々に伝える。
お客様にブレずに伝えたい主語とは何か。
そして、おいしさという述語(シズル感)をどう
表現するのか。
さて、僕たちの愛する商品にはどんなパッケージ
が相応しいのか。
徹底的に考え抜きたい。