第860号『本を書く-10』

【新聞見出し】

前回、すでに顕在化しはじめている、日本におけ
る人口減少がもたらすマーケティングの変容の必
然性について書いた。
つまり、人口減少のいま、もともとのファンを大
切にし、繰り返し買っていただくお客様の「顧客
生涯価値(LTV=ライフタイムバリュー)」をあげ
ていくことが要諦である、と。

さて、今回はファンサイトを考える上での、もう
1つの軸、持続可能な社会モデルについてである。

このテキストを書いている朝の新聞1面に、「き
ょう緊急事態宣言」の文字が、妙におどろおどろ
しく感じる。

東京をはじめ、神奈川、千葉、埼玉など首都圏や
大阪での新型コロナウイルス感染症(COVID-19)
の罹患者が日に日に増している。
収束まで、まだまだ時間がかかるだろうが、いず
れこの一連の事態を振り返った時、どの国のどん
な対処法が有効だったのかという、分析結果が待
たれる。
そうした状況で、いまいま予想することに、あま
り意味はないのかもしれないが、仮説としてなら、
見立てることも一興ではないか。

広井良典著「人口減少社会のデザイン」は、豊富
なデータに裏打ちされ、そして大胆な分析による
未来予想(持続可能な日本の未来像への提言)に、
思わず膝を叩きながらページをめくることができ
た。

この書籍の第4章、社会保障と資本主義の進化の
なかで、社会保障の国際比較、その3つのモデル
について言及している。
少し長くなるが、約めて引用する。

・北欧で行われているような「普遍主義モデル」。
財源は税が中心であり、基本的に社会保障が手厚
い。
高福祉・高負担型の「公助」を重視し、介護や保
育など福祉サービスに重点が置かれている。
理念としては「公助」(政府による再分配)を重
視。
・ドイツ、フランスなどの大陸ヨーロッパに典型
的にみられる「社会保険モデル」。
社会保険料を財源として支え合うシステムであり、
理念として「共助」ないし「相互扶助」を重視。
・アメリカで典型的にみられる「市場型モデル」。
小さな政府として、低福祉かつ低負担をベースと
し、社会保障は手薄で、医療なども民間保険が中
心。
理念としては「自助」(個人や市場による対応)
を重視。

この3つのモデルを並べ、それぞれの国の現状
(罹患率や死者数)をトレースして見ると相対
的に福祉に関して低調なところほどダメージも
大きいのではないか。

さて、日本はどうか。
戦後、アメリカの圧倒的な影響下にあり、加え
て安倍政権(アベノミクス=GDP600兆円達
成という拡大成長路線)はアメリカ(市場型モ
デル)志向が強い。
しかしながら歴史的な流れとして、大正から昭
和初期にかけて、先人たちがドイツの医療保険
や年金制度を主なる範としていたため、概して
ヨーロッパが「高福祉」アメリカが「低福祉」
とするならば、現状の日本は「中福祉」として
推移してきた。

ただし、日本におけるこの方向性は、社会的に
合意して決めたわけではなく、”経済成長によ
り結果として社会保障の財源がまかなわれる”
という、いわばなし崩し的に、たまたま「中福
祉・低負担」というカタチで現在、施行ている。
そして、GDPがほとんど増えなくなった90年
台以降も、大量の借金を将来世代に先送りする
(もっとも無責任な)結果として推移している。

さらに、ここ数年、法人税や所得税の最高税率
を大幅に引き下げる施策と消費税増税が、結果
として中間層の崩壊につながる危機を生んでい
る。
いわば、いちばんファンを生む厚い顧客層(生
活者)を失うことになっている。

今回の新型コロナ渦収束の後、これまでとは違
った世界(価値観)が広がるだろう。
いまよりさらに成長拡大を推し進め、富めるも
のとその他の人々の生活が破壊され、転落者が
蔓延する社会になるのか、それとも格差の拡大
を止め、持続可能な社会としての歩みを始める
ことができるのか。

果たしてどうなるのか。
今回のコロナ渦の危機が、これまでの価値感や
モデルの見直しを迫ってくることは間違いない。
―――――――――――
お知らせです。
「本を書く」シリーズで10回まで進めてきま
した。
現在、次の段階として、具体的な事例について
のまとめと、これまでファンサイト構築に関わ
りのある方々への取材をしています。
ここでシリーズを一旦、休止し、ある程度、事
例や対談がまとまり次第、再開したいと考えて
います。
タイトルもいまだに迷っていますが、次回の再
スタートまでには、なんとか決めたいと思って
います。
引き続きのご高覧、よろしくお願いします。