第866号『企業ファンサイト2.0-その12』

【授業でのひとコマ】

前号でタイトルを決めた。
それに伴い、今号から『本を書く』のシリーズを『企業ファンサイト2.0』と題し、書き進める。

さて、改めて宣言するならば「ファンサイト」とは、主義主張である。
したがって、ファンサイト有限会社は、この主義主張を実践し、実現するためのいわば乗り物でありツールである。

名は体を表す。
例えば「味の素」。
明治41年に東京帝国大学教授の池田菊苗が昆布のうま味成分がグルタミン酸ナトリウムであることを発見し、鈴木三郎助はそれを事業として工業化に成功した。
このうま味こそが「味の本質であり素」なのだとする鈴木三郎助の主義主張があり、「味の素」という商品を作り、味の素本舗という会社を起こした。
例えば「マツダロードスター」。
自動車用語で2人乗りのオープンカーを「ロードスター」と呼ぶ。
小型・軽量でマツダらしいスポーツカーを作りたいという主義主張を貫いて生まれたのが、この車だ。
89年の発売以来、デザインの伝統を守り改良を重ね作り続けている。
ちなみに、2016年には世界累計100万台を突破した。
マツダは数年前から、国内の車を海外で使っている車名に統一している。
小型車の「デミオ」は「マツダ2」、セダンの「アテンザ」は「マツダ6」などと。
これは、おそらくベンツに似たブランド戦略なのだろう。
こうした中にあって、「ロードスター」の車名だけはそのまま変えずに使い続けるという。
この方針もまた、かっこいいスポーツカーを作りたいという主義主張がベースにある。

しかし、創業来19年にして、ファンサイトが前述の事例のように多くに受け入れらている主義主張かといえば、(比べることもおこがましいが)いまだ途上にある。
こうして、なんとか続けていられるのは、ファンサイトを支えてくださる方々の尽力と胆力に依るところが大きい。
『企業ファンサイト2.0』を書き進めるにあたって、これまで応援していただいた方々にお会いし、お話を伺ってみたいと思った。

今回、その一人である株式会社日本マーケティング塾、甲斐貫四郎代表との対談である。
甲斐氏は、日本マーケティング塾代表の前、富士ゼロックス埼玉株式会社、富士ゼロックスインターフィールド株式会社で代表取締役社長を歴任されていた。

対談に入る前に、「株式会社日本マーケティング塾」についての概略である。
1984年の創業から35年間にわたり、マーケティングの本質を体系的に学べるセミナーを提供してきた日本マーケティング塾。
これまで850名を超える卒塾生を輩出してきた実績を誇り、経営、マーケティングの中枢を担うマネジメント職で活躍する多くの企業のリーダーたちを育ててきた “名門”だ。
僕は、2014年から6年間、講師として日本マーケティング塾のセミナーに参加させていただいた。
毎回、名だたる企業から送り込まれてくる塾生のレベルの高さに驚くとともに、授業で感じるヒリヒリするような彼らとの真剣勝負の時間が最高に楽しかった。
諸般の事情で2019年に日本マーケティング塾の活動は終了したが、9年間にわたり、代表取締役を務めた甲斐貫四郎代表にファンサイトとの出会いやその魅力、今後期待することなどについてお話を伺った。

●ビジネスは商品がすべてじゃない

川村:甲斐社長が日本マーケティング塾の代表取締役社長に就任されたのは何年でしょうか?
甲斐:2012年です。実は私もこの塾の受講生の一人で、それがきっかけで運営を任されることになったんです。
川村:受講されたのはいつですか?
甲斐:塾が創業した1984年から4年後の1988年でした。当時の講師はマーケティングの分野において国内でも最先端のノウハウを有していた水口健次先生を中心に、営業、プロモーション、流通関係、戦略デザインと、各分野のプロフェッショナルが集まっていて、今思い返しても豪華な顔ぶれでしたよ。
川村:日本マーケティング塾は「マーケティングがわかる次世代の経営者を育てよう」という、それまでになかった大きな目的を持ってスタートしたと伺っています。甲斐社長はその意思を受け継いだわけですから、責任重大でしたね。
甲斐:最初はほとんどボランティアのような形で運営のお手伝いをしていたのですが、代表取締役となると、正直大変でした。その当時、日本の大手印刷機械メーカーのグループ会社の一つであるネット通販会社の再建にも携わっていたんです。「お客様が使いやすいサイトとは何か」について、試行錯誤している時期でもありました。
川村:ユーザビリティ、つまり使い勝手の良さ。それは、ECサイトを運営する上で常につきまとう問題ですね。
甲斐:当時、競合他社の通販サイトと比較すると、商品情報がわかりにくい、注文しにくいと、利便性に劣っているだけでなく、お客様を意識した作りになっていないことが何より気になっていたんです。
川村:なるほど。自社の通販サイトを運営する上での課題の一つだったというわけですね。
甲斐:そもそも商品を販売する中で最も大切なのは、お客様に「なんとなくいいね」と思ってもらうことなんです。理屈抜きに好きになってもらう。実はこれが競合との差別化への一番の近道になる。
川村:たしかに、どんなに新しい商品を開発しても、他社がそれを真似て、さらに良質な商品を作ってしまえばそれで終わりですから。
甲斐:要は、商品がすべてじゃない。飲食店でも通いたくなる店というのは、味の良し悪しだけじゃないですよね。店員の応対や店内の雰囲気、レイアウトを見て、居心地の良さが決め手になったりもすると思うんです。
川村:それはサイトも同じですね。
甲斐:でも、その時は何となく理解しているだけで、はっきりとした答えは導き出せていませんでした。そんなもやもやとした疑問を抱えていたタイミングで出会ったのが川村さんだったんですよ。
川村:初めてお会いしたのは、共通の知人を通してでしたよね?
甲斐:そうそう、その時に川村さんからファンサイトという言葉を聞いて、「これだ!」と思いましたよ。まさに私が悩んでいたことの答えである「お客様視点のサイトづくり」を実践しているんだなと。それで、日本マーケティング塾の講師として参加してもらいたいと打診しました。
川村:それがご縁で2014年から講座の一つを担当したんですよね。本当に貴重な経験をさせてもらいました。
甲斐:実は、ファンサイトに興味を持つ前に、まず川村さんという人物に興味を持ったんです。服装が、経営者とは思えないくらいラフだった(笑)。「すいません、いつもこんな格好なんで」って。それが非常に面白く感じて、「僕はこの人を好きになるだろうな」と直感的に思ったんですよ。
川村:いやはや(笑)。でも、そう言っていただけることはありがたいです。

対談後半は、次号ファンサイト通信867号『企業ファンサイト2.0-その13』で。