第163号『シンプルなこと』

先月、当てにしていたプロジェクトが立続けにキャンセルされた。

なぜ、キャンセルされたのか?
何が原因だったのか?
状況を分析し、反省もしてみた。

当然のことではあるが、毎月の売上げ目標や、達成目標を掲げて仕事をしている。
焦る気持ちも手伝い、気分が滅入った。

僕たちは普段、話している通りに思考し、考えているように行動する。
つまり、人間は頭で考えたように心でも受け止める動物である。
例えば、この仕事を失敗したら大変なことになると思うと余分な緊張と不安が強まる。
それとは逆に、案外簡単にうまくいくだろうと考えると気持ちに余裕ができ、楽しくなってきたりする。
心の持ちようで、いかようにもなる。

それは、十分に分かっている。
しかし、どうにも、ネガティブな考えや、思い込みから抜け出せず、思考のスイッチを切り替えられない時もある。

そんな気分でいたとき、一葉の葉書が届いた。
「第35回ロードレース千倉ご参加のお知らせ」と記されている。
すっかり忘れていた。
2ヶ月ほど前に申し込んだものである。

房総半島、千倉は、ここ数年、何度か遊びに訪れているお気に入りの町だ。
料理の旨い居酒屋と、居心地のいい宿がある。
レースが終わったら露天風呂に入り、思いっきり飲み且つ食らおうとの魂胆で申し込んだものである。
かくして週末、海の見える町で、10キロのロードレースマラソンに参加した。
台風が近づいていたが、当日はよく晴れ、走るには暑いくらいの陽気だった。

10時20分、漁港広場から、そろりと歩くようにスタートした。
まずは、国道沿いに館山方面へ5キロほど走る。
折り返し、こんどは、海を右手に見ながらゴールへと向かう。
道ばたには、コスモスの花が咲き、風に揺れている。
海は日の光をうけ、キラキラと輝き、夏のような力強い雲が湧き出ている。

沿道では子供たちやご老人の「がんばって」の声援が嬉しい。
「こんにちは」と手をふり、応える。
こうして、走り始めて30分ほど経つと、こわばりがほぐれ、なんだか優しい気持ちになってくる。

変化が激しく、スピードが要求され、間違いが許されない状況にいることが多い。
時間に追われ、仕事に押しつぶされそうになっていた。
そして、少し乱暴で押し付けがましい企画書を書いていたのかもしれない。

自分に優しくなってはじめて、周りの人にも優しくなれる。
明るく楽しく元気よく。
恥ずかしいくらいシンプルなことだけど、やっぱりこれが基本でっしょ。
だって、僕らは幸せになるために仕事をしているんだ。

ぐんぐん走る。
汗が噴き出す。
浜からの風が気持ちいい。
スタートした時に比べ、体と心が少し軽くなったように感じる。
右手に、道の駅「潮風王国」が見えてきた。
ここを過ぎれば残り2キロ、ゴールはもうすぐだ。

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