ー Tからのメッセージ ー
じつはこのことを書くには随分と迷いがありました。
極めて個人的なことであり、お話しすることにどれほどの意味があるのかと自問自答をしていたからです。
その気持ちがはっきりしたのは友の一周忌を迎えた先週末のことです。
やはり話してみようと。
友のTとは高校入学時、同じクラスで席次が私の1つ前だったという偶然の出会いから始まりました。
彼は、病気のため一年年上だったこともあり音楽や映画、政治経済、文学と様々な分野に長じていました。
ローリングストーンズが大好きで、三島由紀夫をこよなく尊敬し、時折、経済誌に投稿した記事が掲載されもしていた、そんな高校生でした。
卒業時、学年でもトップクラスだったTの進路を誰もが疑いもなく有名大学に進学するものと思っていました。
ところが、Tが選んだのはまったく違う道でした。
突然、私たちの前から消えたのです。
そして1年後、偶然にもTと東京で再会しました。
その時Tはすでに社会人、私は一浪してなんとか美大に滑り込み学生生活をはじめていたころでした。
それから数えて30年以上、長きに渡る付き合いでした。
この間それぞれにいくつもの出来事があり、そのたびに酒を飲み、なにげない言葉を交わし、互いの近況報告をただただ、うんうんと頷いて聞くことをなんの力みもなく受け入れてきました。
5年前、勤めていた会社が二進も三進もいかなくなりました。
最後まで残るか、それとも辞めようかと迷っていた時でした。
そのときもTは頷きながら話を聞いてくれました。
帰り際、めずらしく彼から一言、話してくれた言葉があります。
「いろいろあるだろうけど、どんなことがあっても俺はお前の味方だぜ」と。
心に沁みました。
人は正しいことを言われるよりも、受け入れてくれることのほうが、どれほど救われるかを実感しました。
そのTが昨年の暮れ、自らの命を絶ったのです。
最後に電話をもらった日のことを思い出します。
新しい職場がしっくりこないとめずらしく愚痴をこぼしていたことを。
そして、暮れには飲もうと約束し電話を切りました。
今度は私がTに一言、話す番だったのに。
「どんなことがあっても、お前の味方だぜ」と。
いま誰もが、不確実で自信の持てない時代に生きています。
頑張っているのになぜか、その成果をなかなか実感できないと感じている人、企業の前線でそれこそ満身創痍で戦っている人、そして人生の森で道に迷っている人に伝えたいことがあります。
成功者でも勝ち組でもない私が言うことがどれほどのものなのかはわかりません。
でも、あのときTが私に話してくれたように、今度は私が誰かに話さなければいけないという思いが湧いてきたのです。
なぜなら、Tの言葉に背中を押され、50歳で起業を決意したからこそ、いまの自分があると確信しています。
自分の人生は自分でしか生きられないのです。
だから友への弔いは何かと問われれば、それは自分に残された時間を精一杯生きることです。
ITの専門知識も、若さも、金も、コネもない中年酒飲み親爺がいかに起業したかをお話しします。
次回につづく