1968年の夏、僕は始めて上京した。
今年のようにものすごく暑かった、そんな記憶が甦った。
実家の書棚にあった古い雑誌をパラパラとめくっていたら、栞代わりに挟まっていたメモを見つけた。
開いてみると、1968年8月のスケジュールが書き記されていた。
高校2年の夏、渋谷にある桑澤デザインスクールの夏期講習を受講するためだった。
その間、出版社に勤めていた従兄弟のアパートに転がり込み、講習の合間に東京の街をウロウロと彷徨った。
渋谷の天井桟敷では、1階にあった喫茶店で寺山修司とカルメンマキが談笑していた。
新宿、花園神社の紅のテントでは、李礼仙が、唐十朗が、四谷シモンが、演じていた。
西口広場では、岡林信康が「友よ」と叫び、歌っていた。
路上にはヘルメットをかぶり、殺気立った若者たちが溢れていた。
渋谷、原宿、新宿、銀座、六本木、どの街も、人が溢れ、そして、それぞれ独特な熱気を持った界隈があった。
その熱気に煽られ、何かが変わりそうで、その何かが、いまにも弾けそうに膨らんでいた。
ポスター・ファッション・音楽・雑誌・映画・演劇、すべてがイカしていた。
僕も、この熱の渦のなかに加わりたいと思った。
あれから40年目の夏。
僕はこの東京の街に居て、何を手に入れ、何を失ったのだろうか。
創造する熱が冷めいていないか?
野心を諦めていないか?
冒険心は擦り減っていないか?
旅立った友と母と弟に、そして16歳の僕に僕は、そっと訊いてみた。