第899号『悪酔いしそうだから』

【捨てられたテディベア】

10年ほど前、弘前市土手町にある親友柴田哲郎君の店「アルポルト」で、高校時代の仲間たちと還暦の前祝いのような集まりに参加した。

隣の席にはF君が座った。
彼は、公務員として定年まで勤め上げる生真面目で実直な人物である。
酒会も進むにつれ、楽しい昔話ばかりではなく自然に愚痴や悩みごとの類も多くなってくる。
そして、こんな悩み事を相談された。

F君には、既婚の息子が2人いる。
長男には5歳と2歳になる子供がいて、次男には子供がいない。
息子2人とは仲良くやってきたが、孫の小学校入学を前に長男一家と実家の敷地内に同居することを決めた。
すると、これまでなんの問題もなかったのに、家の完成が間近になってから次男の様子がおかしくなった。
次男が、急に兄貴ばかり手助けしていると不満をぶつけてくるようになった。
そうは言うが、これまでむしろ次男に手をかけてきたつもりなのに。
関係を修復しようにも、連絡が取れない状況なんだと。

そして、自分の育て方が間違ったいたのかなと聞かれた。

僕は問われて、100%君が悪いと即答した。

親の仕事は、子供を育てることだ。
当然のことながら、その最後にやらなければならないのは子供を自立させることだ。
子供は可愛いが、自分の持ち物ではない。
つまり、親から離れさせることだ。
そこまでが、親の仕事だ。
F君、君はそれを放棄したんだと続けた。

だから、息子さん2人は、いつまでも親の庇護を受けて当然と思っているのではないか。
当たり前の権利のように。
それじゃ、まるで子供のままなんじゃないか。
次男の「兄貴ばかり優遇して不公平だ」という言葉の裏には僕もまだ子供のままなんだということを示している。
それは、次男のせいではない。
そんなふうに育ててきた、そして君の思う通り、兄弟ふたりとも、子供のまま成長が止まってしまったのだ。

実のところ本当の理由は、F君も親になることができていなかったのではないか。
君も、また子供のままだったからじゃないかと。

それを断ち切るには、子どもたちを放り出すしかない。
しかし、そのことに誰よりも耐えられなのは、F君、君自身なのかもしれないとも。

なんだか、悪酔いしそうな宴となった。

ふと、ここ数日、TVや新聞紙上で親離れできない息子と、子離れでなきない我が国の代表たる政治家の姿をみて、こんな10年も前のことを思い出してしまった。

笑わせるな、何が自助だ。
悪酔いしそうだから、今夜は酒を呑むのを控えようと思う。