【キリンホームタップ】
もうずいぶんと長いこと、外食をしていない。
居酒屋にも、蕎麦屋にも、レストランにも行っていない。
たまに無性に出掛けてみたいと思うが、友人に会うことも憚られるし酒も飲めないのであれば、急ぐこともないし、まぁいいかとなってしまう。
結局ほぼ毎日、自宅で食事を摂ることになる。
幸い、妻とは食べ物の嗜好も酒を飲むことも合う。
だから、普段使いのおかずと酒があれば十分に楽しめる。
とは言え、献立は日々のこと。
勢い、食事の支度にはあれこれと思案することになる。
義父が板前だったこともあり、その手業を傍らで見てきたせいか妻は料理の下拵えの雑多をあまり苦にしない。
そうは言っても、それも見よう見真似でのことであり、本格的なものではない。
ある日、妻宛に宅配便で本が数冊届いた。
包を開けて取り出し、見せてくれた。
送られてきたのは「暮しの手帖別冊 暮しの手帖の基本料理」、「暮しの手帖別冊 暮しの手帖の基本料理2」、「土井善晴 素材のレシピ」の三冊。
聞けば、ネットで中古本を探して手に入れたのだと言う。
元々、美味しい食事を出してくれていたが、このレシピ本が我が家に来てからというもの、個々の料理もそうなのだが、全体を俯瞰して食卓にリズムのようなものが生まれた。
あれこれと新奇なところにいかず「基本」や「素材」に拘るところが妻らしいし、結果として食のギアを一段上げたようにも感じる。
さて、食卓にもう1つ新たな仲間が増えた。
それは、キリンのホームタップ。
家で生ビールの味わいを楽しめる。
ビールのサブスクリプション、つまり定期購入である。
毎月2回、宅配便で工場から直送のビールが届く仕組みである。
申し込んでから数ヶ月、申し込んだことさえ忘れかけていたころに、もうじきお届けできますとのメールが届いた。
そして、さらに待つこと1ヶ月。
遂に我が家に、専用サーバーとビールタンクが送られてきた。
早速ダンボール箱を開け、ガイドブック取り出し読みながらセッティングしようとした。
すると前準備としてビールタンクはしっかりと冷蔵庫で冷やして置くことと書かれていた。
美味しく飲むためには、小さな努力は惜しまない。
逸る気持ちを抑え、まずはビールタンクを冷蔵庫に仕舞った。
翌日、高さ約38センチ幅20センチ弱の白い筒形のサーバーを組み立てた。
ホースを繋ぎガスボンベを装着し、よく冷えたビールタンクをセッティングする。
そして、木目調のビールサーバーのレバーをグイと手前に引く。
シュルルと淡い黄金色の液体がグラスに注がれる。
グラスの7分目のところで、今度はレバーを奥に押す。
すると、白くきめ細やかな泡がフワフワと積み重なってビールの発泡に蓋をする。
妻と乾杯をし、グラスを傾ける。
白くきめ細やかな泡を押しのけ、薄黄金色の液体が口へと侵入し、麦芽の旨味とホップの上品なほろ苦さが一気に拡がる。
缶ビールとは、比ぶべくもない別物。
柔らかく、そしてなんとも円やかな味わいである。
キリンホームタップのロゴのショルダーには”New Beer Experience”と書かれている。
外食ができにくくなったいま、それに変わる新しく豊かな体験を楽しんでいる。