第10回 スニーカーウェディング

すごくどうでもいい話なのですが、僕はスニーカーが好きです。今、世間はスニーカーブーム、お洒落な大学生たちが、男も女もみんなスニーカーを履いています。

しかし、僕が大学生の頃はブーツのキレイめなスタイル全盛期、スニーカー好きは異端でした。今、スニーカーを履くことがポピュラーなお洒落である世の中を生きる大学生たちは幸せ者です。そして、スニーカーで仕事をすることが許されている僕もまた、幸せ者だと思っています。

なぜスニーカーに魅力を感じるのかと自問するとき、いつもある友人のことが思い浮かびます。その友人と仲良くなったのは大学入学当初、キャンパスを歩いていて声をかけられことがきっかけでした。体育の授業が一緒で、適当にあいさつをした程度の間柄だった彼のことを僕はあまり知りませんでした。彼は、僕に向かって開口一番こう言いました。

「やっぱりカントリー、いいよね」と。

確かにその時、僕はアディダスのカントリーを履いていましたが、パッと見でモデル名を言い当てられたことに驚き、またこの男が希有なスニーカーオタクであることを瞬時に悟ったのです。彼はナイキのエアジョーダン7を履いていて、これもまたスニーカー好きがまず反応するモデルなのですが、この履きこなしが実にかっこよかったことを憶えています。

そんな彼が、スニーカーの魅力を語った言葉は、今でも忘れられません。

「靴底が減ったら修理できないし、ウレタンソールは5年もすれば崩れちゃう、放っておくだけで白いゴムは黄ばんでくる。でも、その刹那感が好きなんだよね」と。

僕は当時、この言葉を聞いて、なぜ僕がスニーカーを好きなのかを言い表してくれたなあと、深く感じ入りました。スニーカーはいつだって今際、投資とか財産の真逆の存在なのです。でも、だからこそ今この靴と歩きたいと思うわけです。そしてスニーカーは、その性質上、自分の行動範囲を広げてくれる。いま、この靴とだからこそ、行ける場所がある。そう思わせてくれる存在なのです。

今週末、そんな彼の結婚パーティーがあります。文学のことも映画のことも演劇のことも話せる、10年来の良き友人です。笹塚ボウルを貸し切って、バンドと舞踏集団とDJを呼んで、みんなでボウリングをする。実に彼らしい結婚パーティーに、どのスニーカーを履いていこうかと、悩んでいます。

いま、僕の家には30足くらいスニーカーがありますが、基本的に履いてなんぼ。そういう意味で、僕はスニーカーを履ける仕事というのは、本当に幸せな仕事だなあと、心から思っています。

最後に、僕のコレクションの中で、唯一履かないであろう珍品が一足あるので紹介しておきます。アシックスと、静岡模型教材共同組合がコラボレーションした、10年前の貴重な企画品。プラモデルのパッケージを模した珍妙な箱絵と、軍艦カラーのスニーカー、中のソールは木のタイルのプリント。こんな酔狂なスニーカーは、今後そう簡単に世には出ないでしょう。

こいつは譲りませんよ。

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