横浜市では、70歳から敬老特別乗車証という優待制度を利用することができる。
納税額によって収める料金の違いはあるが、指定された料金を払えば原則、バス・地下鉄・モノレール(シーサイドライン)が乗り放題である。
まことにもって、老人に都合のよい制度である。
当然、税金の使い道としていかがなものかと、市議会で制度見直しの議論もされているようである。
先日、この制度を利用して鎌倉まで、美味い蕎麦屋があると聞き妻とでかけた。
乗車した場所か下車した場所が横浜市内であれば、フリーパスが適用されるので、モノレールで並木中央から金沢八景まで行き、八景駅から鎌倉まではバスを利用した。
バスでの風景が意外と楽しく心地よかった。
普段、鎌倉まで行くとしたら電車を利用するのが当たり前。
バスから見える街並みや、乗降客の様子が電車でのそれとは少し違って見えた。
バスでの遠出も、なかなかいいものだなと思った。
週末、映画を観た。
『君を想い、バスに乗る』ギリーズ・マッキノン監督作品。
スコットランドの最北端ジョンオグローツからイングランドの最南端ランズエンドまでの約1400キロ。
その間を路線バスを乗り継ぎ、90歳になる老人が無料パス(イギリスにも横浜市と同じような制度があるようだ)を使い、旅に出るというロードムービーである。
それは、亡くなったばかりの妻との約束を果たすための旅であり、自らへの区切りのための旅でもあった。
場面の説明も登場人物たちの言葉も少ないが、映画という文脈のなかでどっぷりと浸りながら、自らの人生の来し方行く末を重ね合わせるに十分な秀作である。
バスでの旅だからこそ、イギリスのローカルなエリアの風景や人々の日常の機微が垣間見れた作品でもあった。
主演はこの作品で2021年イタリアバーリ国際映画祭で最優秀主演男優賞に輝いたティモシー・スポールが、円熟した演技を見せてくれる。
余談だが、似たようなタイトルの傑作映画を思い出した。
1991年フリドリック・トール・フリドリクソン監督作品『春にして君を想う』。
アイスランド特有の幻想的な風景の中、年老いた男女の死への旅立ちを描いた傑作ロードムービーである。
地図を広げてみれば、横浜の街も思いのほか広い。
さて、今度はどの路線バスを乗り継いでどこまで行こうか。
週末の楽しみがまた1つ増えた。