第970号『創造力の欠如』

週の始まり、季節を進めるかのように秋雨が降る。もうすぐ冬、少し憂鬱な心持ちになる。そんな気分を増幅するかのように、朝のニュースには本当にげんなりさせられる。

プーチンによるウクライナへの攻撃が止むことなく、多くのウクライナ市民が犠牲になっている。血を流し横たわるの人々が、TVの画面から映し出されるたびに心がざわつく。同じように、旧統一教会による信者家族と二世信者の悲惨な状況を知るたびに心が痛む。まして、それを利用し加担した多くの政治家の悪辣さに呆れ、そして怒りを禁じ得ない。なぜ、理不尽にも一方的な力で足蹴にし土下座させるかのように、不当にも捩じ伏せられなければならないのか。

A=BならB=Aというイコールを理解できることが、人間の意識の大きな特徴だ。つまり、イコールという等価交換の物語(映画や小説で共感することも)を理解しうるのが人間である。その一方で、高度に知能が発達しているといわれるチンパンジーでさえ、いつまでたってもそれを理解することができない。なぜならば、動物には相手と自分を交換してみるという概念がないからだ。

認知科学の実験によると、人の気持ちがわかるようになるのは、3歳から5歳の間だという。三姉妹とその母親による実験例である。

・舞台に蓋付きの箱、AとBふたつ置き、三女の3歳児と次女の5歳児に見せる。
・長女のお姉さんが来て、Aの箱に人形を入れて舞台から下がる。
・次にお母さんが舞台に上がり、その人形をBの箱に移し、蓋をして舞台から降りる。
・そこに長女のお姉さんが戻ってきて、3歳児と5歳児に「お姉さんはどっちの箱を開けるでしょう」と問う。
・すると三女の3歳児は、Bの箱に母親が人形を入れたことを知っているので、Bの箱を開けると言う。
・ところが、次女の5歳児は、母親によってBの箱に人形が移されたことを長女は知らないのだから、Aの箱を開けるだろと推論する。

さて、5歳児の次女の心理にどんなことが起きているのか?

仮に自分がお姉さんだったら、Bの箱に母親が人形を入れ替えたことを見ていないからAの箱を開けるだろうと想像する。つまり、姉(相手)の立場に立つことができたのだ。姉と心理上でイコールの関係を理解できるようになること、交換することができたのだ。この理解が可能になるのが、概ね3歳を過ぎてからだと言う。

この理(ことわり)に準じていうならば、誰かを足蹴にし土下座させることを強いる者は、いずれの日にか、自らが同じ立場に立たされる事態が起こりうるという、創造力が欠如した者だと言わざるを得ない。

2件のフィードバック

  1. 今回もまた、深いい話をありがとうございます。自分はコンサルタントとして、経営者に寄り添うべきだよと、人からアドバイスをいただきます。良かれと思って、会社の問題点と解決策を提示してしまいますが、それも、時には「経営者に寄り添う」スタンスではなく、一方的に正論をぶつけてしまうことになるのだと、先日、ある人から教えてもらいました。
    言われる側の気持ちになることは、大事ですね。戦争とはレベルが違いますが、自分の想像力も、もっと磨かねばと思いました。
    ありがとうございます。

    1. 小田切様、今回も素敵なコメントありがとうございます。
      正論を一方的にぶつける。しかも熱弁で。汗
      頂いたご意見、まったく自分にも当てはまることがあります。
      改めて、自分を顧みてみたいと改めて思いました。
      ありがとうございます。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です