「新製品」あります

新製品あります

iPadの発売が近づいて電子書籍の話題がますます盛んです。電子書籍の普及によって何が起こるのか、いろいろと予測されています。その中でおもしろく思うのが「新刊」のあり方です。

iTunesなどの音楽配信サービスの登場で激変した楽曲との比較で考えてみると、膨大な数の楽曲にかんたんにアクセスできるようになったことで、ユーザーの嗜好の多様化が劇的に進行しました。いつでもどこででも好きな曲にアクセスできるという環境の中では、ある曲が「新曲」であるかどうかに大きな意味はありません。重要なのはそれが好きな曲であるかどうかです。

同じような環境を電子書籍にも想定してみると、そこでは「新刊」という概念が希薄になっていくことが想像されます。現在の書籍業界にとって新刊は非常に大きな存在です。そこには音楽業界とは違った構造的な課題もあるだけに、事態は深刻かもしれません。

一方、ユーザーの視点から見ると、新聞、雑誌、テレビなど既存のメディアが提供する書評などの情報はユーザーの私的な嗜好に十分に応えてくれるものではなくなっています。お仕着せのおすすめ情報では満足できません。ブログや商品比較サイト、SNSやTwitterなどのソーシャルメディアなど、ネットから入手できる情報の方が使い勝手がよいのです。

書籍の作り手と売り手にとっては「新刊」というラベルが力を失っていく。ユーザーは、権威あるお墨付き情報を排して、何を選ぶかという問題に立ち向かっていく。お互いに課題があるわけです。この間のことを考えていくとおもしろいのです。

老婆心ながら、この話は予測から予測した妄想トークなのでご注意ください。妄想ついでに、「新刊」を「新製品」と読み替えて話をさらに広げてみるのもおもしろいかもしれません。私たちの身の回りには、そこそこ使えるまたは満足できるものごとが、すでに十分にあると言えます。新製品だから良いのだ、と無条件に断言する理由はそれほど多くない気がするのは私だけでしょうか。