第1003号『2023上半期私的映画ランキングBEST5』

気がつけば7月、今年も折り返し地点。さて、今年前半の私的映画ランキングBEST5を選んでみたい。対象作品は映画館だけにとどまらず、Netflix、Amazonプライムなどでの鑑賞も含む。ここまで鑑賞作品数32本。まずは5位から発表したい。

5位.『ピノッキオ』
ギルモ・デル・トロ、マーク・グスタフソン共同監督作品 2023年1月7日:Netflixにて鑑賞

ギルモ・デル・トロは、最も好きな映画監督の一人である。2017年に『シェイプ・オブ・ウォーター』でアカデミー作品賞と監督賞を受賞している。その鬼才がストップモーション映画の名匠マーク・グスタフソンと共同監督で製作したものである。2008年に企画が発表され2014年に公開を目指していたが、資金難で頓挫。だが、2018年にNetflixが権利を取得し製作が再開した。日の目を見るまで10年以上の歳月がかかった。ちなみに、ストップモーションとはコマ送りで一コマ一コマ撮影するアニメ技法である。例えばテイム・バートン監督作品『コープスブライド』やウェス・アンダーソン監督作品『犬ケ島』などがそれである。2時間の映画であればそのシーンはすべて一コマづつ撮っていくことになる。想像するだに、気が遠くなるような作業である。

カルロ・コローディの原作をベースにしながらもギルモ・デル・トロ版のいわば『シン・ピノッキオ』を描いている。その特徴をひとつ上げるならば、『パンズ・ラビリンス』では、フランコ独裁政権下のスペインを舞台に、地下の迷宮に迷い込む少女の成長物語であり、今作『ピノッキオ』では、1930年代のイタリアで、ムッソリーニのファシスト党が支配している世界のなかで成長していく男の子の物語である。第95回アカデミー長編アニメーション賞受賞作品。

4位.『SLAM DUNK』
井上雄彦監督作品 2023年3月29日:T・ジョイ横浜にて鑑賞

漫画でもアニメでも『SLAM DUNK』は読んで観ていたし知っていたけど、こんな『SLAM DUNK』は初めて観た。つまり、映画スクリーンの大きさで、最高の音質でこれまで観たことのない宮城リョータ・三井寿・流川楓・赤木剛憲・桜木花道・木暮公延・彩子そして安西先生に会えた。

なによりも、ものすごく細部にこだわったバスケのシーン。脚の踏み方、ボールを受けたときの身体の反応、シュートをするときのタイミングなど、体感としてもっている「バスケらしさ」が表現されていることにも驚いた。漫画は漫画、映画には映画のそれぞれの楽しみ方がある。映画『SLAM DUNK』でその世界を存分に楽しめた。

3位.『TAR』
トッド・フィールド監督作品 2023年5月25日:kino cinema横浜みなとみらいにて鑑賞

監督のトッド・フィールドは俳優として映画のキャリアをスタートし、スタンリー・キューブリック監督作品『アイズ ワイド シャット』などに出演していた。僕は観ていないが、サンダンス映画祭で初公開された『イン・ザ・ベットルーム』(01)がアカデミー賞作品賞・脚本賞などにノミネートされるなど高い評価を得た。本作は16年ぶりに手がけた長編作品。当初からケイト・ブランシェットを主演に想定したシナリオで、天才的な才能を持つ女性指揮者(リディア・ター)の転落劇を描いた物語である。

ドイツの有名オーケストラで、女性としてはじめて首席指揮者に任命された主人公リディア・ター。天才的能力とたぐいまれなプロデュース力で、その地位を築いた彼女だった。そのターは、いまマーラーの交響曲第5番の演奏とレコーディングのプレッシャーと、新曲創作に苦しんでいた。そんなある時、かつて指導した若手指揮者の訃報が入ると同時にある疑惑をかけられ、彼女は追い詰められていく。

今作は『アビエイター』『ブルージャスミン』で二度のアカデミー賞を受賞しているケイト・ブランシェットが主人公リディア・ターを熱演。指揮者としての身のこなし、クラッシックの歴史と知識、その他にアメリカ英語(ケイトはオーストラリア出身)とドイツ語を完璧に使いこなしているとの高い評価。2022年・第79回ベネチア国際映画祭コンペティション部門に出品され、ブランシェットが『アイム・ノット・ゼア』に続き自身二度目のポルピ杯(最優秀女優賞)を受賞。また、第80回ゴールデングローブ賞でも主演女優賞(ドラマ部門)を受賞し、ブランシェットにとってはゴールデングローブ賞通算4度目の受賞となった第95回アカデミー賞では作品、監督、脚本、主演女優ほか計6部門でノミネートされた。

映画としての出来上がりがあまりに素晴らしく且つ知的であり、自らの音楽的素養と知性の低さを呪いたくなった。

2位.『オアシス』
イ・チャンドン監督作品 2023年6月14日:Amazonプライムにて鑑賞

2002年公開の韓国映画。監督・脚本はイ・チャンドン。主演はソル・ギョング。30歳を目前に出所してきたある青年と、脳性麻痺の身体で不自由な女性との特異ではあるが、純粋でひたむきな行動と、周囲に理解されない二人の愛の行方を描いた物語である。第59回ヴェネツィア国際映画祭おいても、監督賞、新人演技賞、国際批評家協会賞などを受賞するなど高く評価された。

映画好きの友人から、なぜまだ観ていないのかと何度となく責められていた作品、それがイ・チャンドン監督『オアシス』だった。観て驚愕した。今まで観ていなかったことを恥じた。馬鹿でどうしようもない人間を愛おしいく感じた。

イ・チャンドン監督に俄然注目。ということで『オアシス』に続いて観たい作品をラインナップしておく。『シークレット・サンシャイン』、『ポエトリー アグネスの詩』、『ペパーミント・キャンディー』(7月1日鑑賞済)

1位.『怪物』
是枝裕和監督作品 2023年5月8日:TOHOシネマズ六本木にて鑑賞

監督:是枝裕和、脚本:坂元裕二、音楽:坂本龍一、企画・プロデュース:川村元気。カンヌ国際映画祭で脚本賞とクィア・パルム賞を受賞。

“これはね、純愛ラブストーリーだよ
これを聞いてどんな物語を想像するでしょうか。
私達は間違いなく怪物であり人間である。”

“序盤は「こういう学校の体質って最悪だよな~」と思い、次に「実はイジメは麦野が加害者?」となり次に「やっぱり黒幕は星川くん?」というふうに視点が変わるたび真実が大きく変化して面白い。”

“わざとネタバレを読みにはいかなかったけど、SNSにあふれる断片的な情報を踏まえたうえでの鑑賞。今回は監督が脚本を担当しておらず、またカンヌで脚本賞を受賞したことも知っている。
たしかに上手い。”

“観てから一週間くらい経ったけど、感想がうまく書けない
泣いたし怖かったしモヤモヤともなった
景色と音楽が綺麗で、今年の夏は諏訪に行きたいなと思った”

上記のテキストは、映画サイトのレビューからランダムに選んだものだ。賛否、評価の揺れ幅が大きく、且つそれぞれが語りたくて仕方がないという印象をもった。

僕は一般公開前に、且つカンヌ映画祭発表前の試写会で観た。ガツンとした手応えを感じた。おそらく2023年度、最高の映画作品だと予想している。僕もこの映画について語りたい。だから、あなたにも観てほしい。まだまだ上映中。

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