第1022号『星と火とストーンズと』

週末、妻と旅にでかけた。行き先は、南房総市千倉。先月、愛猫リリーの腸にできた腫瘍が悪化し、亡くなった。4月以来続いていた看取りから開放された。その一方で、大きな喪失感に襲われた。気分を変えたかった。それならばと、小さな旅にでかけようと思い立った。

千倉へは、年に二、三度の割合で、かれこれ20年前から訪れている。しかし、コロナの影響でここ3年ほど来れずにいた。今回、懇意にしている友人で千倉在住のガラス作家、本阿弥匠くんのお宅に宿泊させてもらうことになった。

僕は、70歳で運転免許証を返上した。したがって、この旅は電車とバスと徒歩とフェリーを駆使して移動することになる。快晴の朝、10時に自宅から出発し京急線久里浜駅へ。駅に隣接する食品売場で昼食用の弁当とビールを購入した。駅前のロータリーからバスでフェリー乗り場へ向かう。12時15分久里浜港発、12時55分金谷港着。わずか40分足らずの船旅。それでもなぜかフェリーに乗ると、旅気分がぐっと高まる。座席につき、海を見ながら弁当に舌鼓を打ちビールを楽しむ。あっという間に金谷港に着岸。タラップを降り、徒歩でJR内房線浜金谷駅まで移動。そして、館山を経由し2時過ぎには千倉駅に到着した。

本阿弥匠くんから、4時ころに迎えに来てくれると連絡があり、その間に今晩の宴用の食材を準備すべく、南房総エリアを基盤にしている地元スーパー「ODOYA(おどや)」へ。普段、近くのスーパー、オーケーストアとかイオンとは品揃えが違うが、それがまた楽しい。ここで、BBQ用の肉や魚、野菜などを購入する。

匠くんを待つ間、スーパーの向かいにあるコーヒーショプに入る。ショップの方と雑談をしていると、彼は鎌倉から移住し、サーファー仲間として匠くん(彼もなかなかな腕前のサーファーである)の知り合いとのこと。移住者も多い小さな町ならではの、コミュニティが根付いていることを感じた。匠くんにコーヒーショプにいることを告げ、迎いに来てもらう。そして、彼の自宅へ。

彼の住まいは、谷津(やつ)と言われる谷間に挟まれた奥の場所にあり、周りにはほぼ民家がない。その地に、ガラスを溶かす坩堝(るつぼ)を持つアトリエと自宅がある。到着し、まずは薪用の枯れた枝を集める。アトリエ前の空き地にコンロとBBQ用チャコールグリルを用意し、火を起こす。木炭も投入し準備を整える。

夕方5時を過ぎると、街灯も隣家の明かりもなく、徐々に深い闇と静けさに包まれていく。こうして、杯を交わし肉を焼き、宴が始まる。話が盛り上がる。火が燃え、それに呼応するかのように、アトリエに備えつけてあるスピーカーからローリング・ストーンズの音楽が大音量で流れる。見上げれば満天の星空。それも半端ない数の星だ。野外で吐く息は白いが、火と友の心遣いが身体と心までも温めてくれた。

それにしても、星と火とストーンズの音はメチャクチャ似合うと思った。

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