恒例の映画のランキングである。昨年度の特徴として、正月早々アキレス腱断裂もあって自宅でDVDやNetflixなどTVモニターでの鑑賞が多かった。当然、映画館での視聴方法とは、音量や音響効果、そして暗闇で集中することが出来るか否かといった点で、やはり大きく異なることもあらためて実感した。
ともあれ、2023年の1月14日にグリンダ・チャーダ監督作品『カセットテープ・ダイアリーズ』(なかなかの佳作)から始まり、12月28日フランク・キャプラ監督作品『素晴らしき哉、人生!』(これぞ、マスターピース)まで、84本。残念ながら今年も目標の100本にはとどかなかった。旧作と新作、映画館で観た作品とDVDやNetflixでのものが入り交じっている。(ただし、初見以外の作品は順位から外している)メモを頼りに、良いと思えた順に並べてみた。いつもに比べボリュームがあるので、3回に分けて配信したい。今回は10位から7位までを発表。
10位.『僕を育ててくれたティンダーバー』
ジョージ・クルーニー監督作品。6月29日、Netflixにて鑑賞。
人気俳優であり監督としても『ミッドナイト・スカイ』や『グッドナイト&グッドラック』などを手がけてきたジョージ・クルーニー。今作は、ピュリッツァー賞受賞ジャーナリストで作家のJ・R・モーリンガーが2005年に発表した同名自叙伝を映画化。
物語は、ニューヨーク州ロングアイランドを舞台に、家庭を顧みない父と別れた母に連れられ、祖父母や伯父のチャーリーが暮らす母の実家にやってきた少年JRが、チャーリーや彼の経営するバーの常連客との交流を通して成長していく日々を描く。父親不在のJRに、男としての生き方やさまざまなことを教える伯父チャーリーをベン・アフレックが演じている。
それにしても、ハリウッドでは役者が監督としても成功している事が多い。今作のジョージ・クルーニーやベン・アフレックをはじめ、マット・デイモン、ショー・ペン、大御所クリント・イーストウッドもいる。
9位.『アアルト』
ヴィルピ・スータリ監督作品。10月23日、MM21キノフィルムにて鑑賞。
フィンランド出身の世界的建築家・デザイナーのアルバ・アアルトの人生と作品にスポットを当てたドキュメンタリー。フィンランドの新鋭女性監督ヴィルピ・スータリが手がけ、同国のアカデミー賞と言われるユッシ賞で音楽賞と編集賞を受賞。
北欧の優れたデザインの家具・食器や数々の名建築を手がけたアルバ・アアルト。美術やデザインを学んだものとして、その存在は知っていた。そのアアルトを動く映像として初めて観た。さらに、妻、アイノと交わした手紙の数々や、同世代の建築家(バウハウスの教授陣)や友人たちの証言を通し、彼の人生の軌跡を、まるでツアーに参加しているかのように観れた。この斬新な編集技法にも驚かれた。
8位.『流浪の月』
李相日監督作品。11月23日、Netflixにて鑑賞。
2020年本屋大賞を受賞した凪良ゆうのベストセラー小説を、『怒り』の李相日監督が広瀬すずと松坂桃李の主演で映画化。ポン・ジュノ監督作品『パラサイト 半地下の家族』の撮影監督を努めたホン・ギョンピョが今作の撮影監督を担当。
ある日の夕方、雨の公園でびしょ濡れになっていた10歳の少女・家内更紗に、19歳の大学生・佐伯文が傘をさしかける。伯母に引き取られて暮らす更紗は家に帰りたがらず、文は彼女を自宅に連れて帰る。更紗はそのまま2カ月を文の部屋で過ごし、やがて文は更紗を誘拐した罪で逮捕される。“被害女児”とその“加害者”という烙印を背負って生きることとなった更紗と文は、事件から15年後に再会するが……。
李相日は僕の好きな監督の一人である。これまでも、『フラガール』の蒼井優、『悪人』の満島ひかりなど、数々の傑作と若手女優を見出してきた。広瀬すずは『怒り』で、李相日監督から、厳しい演技指導を受けた。そこで女優として開眼したと言われている。今作でも彼女の演技が素晴らしい。加えて松坂桃李もその存在感ある佇まいが光っていた。
7位.『THE FIRST SLAM DUNK』
井上雄彦監督作品。3月29日、横浜T・ジョイにて鑑賞。
言わずとしれた、スポーツマンガの金字塔的作品のアニメ映画化。 その骨格は残したまま、宮城リョウタを軸とした視点からドラマを再構築。 三井、流川、桜木、赤木が実際の試合ならばこういう動きをするだろうという説得力のある表現が見事だ。映像作品ならではの時間経過の演出も上手い。 スポーツアニメの歴史において、この『THE FIRST SLAM DUNK』以前か以後かと、分類されるようになってもおかしくない程の傑作。また映画というフォーマット(大画面・大音量)での可能性も実感できた。
次回は、6位から4位までの発表を予定しています。
―――――――
お知らせです。
2月23日(金)のファンサイト通信は、旗日(天皇誕生日)のためお休みさせていただきます。次号1031号は、3月1日(金)の配信予定です。引き続きご高覧のほど、よろしくお願いします。