雪景色の道路の脇に出来た長蛇の列、その道の真ん中を10羽ほどのペンギンが歩いている。
なんとも不思議な風景である。
先月、新刊本コーナーで、この気になる写真を表紙に使っている本を見つけた。
本のタイトルは「旭山動物園物語」とある。
旭山動物園は、北海道旭川市にある。
ここには、パンダやラッコといったスターはいない。
それにもかかわらず、この動物園は2004年の7月、8月と連続して上野動物園の入場者数を抜き、日本一になる。
なぜか?
「すごい」と「かっこいい」を徹底的に追求したからだ。
これまで、動物園の動物たちは、たいがい居眠りをしているか、檻の中で、うろうろと行ったり来たりの往復運動を繰り返している姿がほとんどであった。
「安全」だけど、動物も人間もその「退屈」さにうんざりしていた。
では、「安全という名の退屈」のどこをどう突破したのか。
つまり、動物固有の行動を、それぞれの動物たちに合わせ、のびのびと動きまわれるような仕組みと仕掛けに変えたのだ。
例えば、オランウータンの園舎には高さ17メートルの2本の柱に、長さ13メートルの鉄骨を渡し、ロープを張る。
オランウータンはそのロープを伝わり散歩する。
下には安全ネットなどない。
堕ちたら重傷か悪くすれば死ぬ。
観客はその様子を見上げる。
「すごい」迫力だ。
だが、堕ちるはずもない。
もともと彼らは、生きるために森でそうして行動していたのだ。
例えば、ほっきょくぐま館では、厚さ5センチの強化ガラスの水槽に、160センチの高さまで水が張られている。
お父さんが、子どもに見せようと抱き上げたとき、クマは勢いよくダイビングし、水槽に飛び込む。
そして、強化ガラスにガツンとぶつかる。
子どもとジャレようとしたのではない。
食べようとしたのだ。
ホッキョクグマはアザラシを主食にしている肉食獣である。
臭いには敏感だが視力は弱い。
アザラシは、海中から顔を出し、周囲を覗う。
その瞬間をクマは狙い襲いかかる。
子どもを抱き上げたとき、ちょうど160センチくらいの高さになる。
視力の弱いホッキョクグマには、子どもの頭が海面から出たアザラシの頭のように見るのだ。
「すごい」、餌になる恐怖が体験できるのだ。
あるいは、表紙の写真が目を引いたペンギンの行進。
ペンギンの行進は、飼育し、訓練したものではない。
野生のペンギンは寒さと敵から身を守るために、集団行動をとる。
だから、さかなを採るため、集団で海まで歩く。
その習性がこの行進である。
そのぺんぎん館には、厚さ6センチのアクリルで仕切られた360度透明なトンネルが10メートルほど続き、頭上をペンギンが泳ぎまわる。
まるで、空を飛ぶように水中を泳ぐ姿が「かっこいい」、ペンギンは鳥なのだ。
その他にも、サル、オオタカ、ユキヒョウ、アザラシなど多くの役者がいきいきと登場する。
こうして、この北の大地の動物園は、お客様に「すごくて、かっこいい」動物たちを見てもらうことに成功した。
園長は語る。
「動物がいちばん元気になるのは、やりたいこと、得意なことをやっているときだ」と。
けだし、人間もまた然りである。
「旭山動物園物語」
古館謙二・文/篠塚則明・写真
樹立社 定価1050円