第177号『50歳からの起業 – 最終回』

【出港】
【出港】

ー 決めるということ ー

会社案内やネーミング、ロゴマークなど企業コミュニケーションのためのデザインを設計することがわたしの生業です。

しばしば、デザインは感覚的で曖昧な美意識に寄りかかって成立しているものだと、思われています。
これでは制作する側の意図や意思を本当に伝えることが出来ないのではないか。
こうした事態を変えようと、私はデザインがビジネスとして正しく企業やお客様と関わっていくために、5つほどの指針を持って仕事をしてきました。

1.企業(商品やサービス)に対する的確な理解が出来ているか。
2.コミュニケーション活動における効果的な戦略の組立てが駆使できているか。
3.人と社会に対する健全で倫理観のある見方をしているか。
4.優れたデザイン力を発揮出来ているか。
5.目標達成までの日時を決めているか。

なにが重要なポイントかも熟知しているはずでした。
ところが、これが自分のこととなると事情が変わります。

・これから作る会社は、なにをする会社なのか?
・誰とどんなコミュニケーションをしようとしているのか?
・一言で言えばどんな会社なのか?
・どんな名前でどんな色でどんな形をしているのか?
・いつまでにそれを実現するのか?

紺屋の白袴。
自分の姿や特色が見えていなかったのです。

しかし、「いやだという方法」で、やらないことを決め、「悩みを問題に」できたことで、やりたいことや、やるべきことが見えてきたのです。
そしていつまでにそれを実現するかも決めました。
日時を決めない計画はいつまでも達成しない夢で終わります。
計画に日時を入れることで、それは夢から目標になるのです。

日時を決めました。
3月に辞表を出し、4月には会社を立ち上げる。と。
1ヶ月はある。
ともかくも、会社名・場所・定款は決めなければならない。
はやる気持ちを抑え、この1ヶ月間でなんとかしよう。
そう決めました。

この間も、ボストンクラブのファンサイト「極楽クラブ」の更新作業は毎月続いていました。
そして、「極楽掲示板」に集まるファンのほのぼのとした書き込みに覗くことで私自身、随分と救われました。
それは、「今晩久々に夫婦で一杯やります・・・」といった他愛のないものから、「来月結婚です!」という幸せなお知らせまで様々でした。

「ボストンクラブ」というウイスキーをプレゼントにしたモニターキャンペーンを年に数回実施しました。
その度に毎回、2~3万通を越える応募がありました。
その他にも、ウイスキーに合うおつまみやコロッケの隠れた名店を探すといったコンテンツ、音楽を中心にしたオフ会も設定しました。
ファンと熱気を共有し、ほしいものを提供し、ファンをえこひきしたサイト作りに没頭しました。
ファンサイト「極楽クラブ」は順調に会員数を伸ばし、2002年の1月には、10万人の大台にまで達していました。
キリン・シーグラム社の「ボストンクラブ」はサントリーの「善」やニッカの「ブラックニッカ」に比べ、知名度も売上げも2,3番手に位置するウイスキーかも知れません。
しかし、そのウイスキーのサイトが面白くて元気がいいのです。
ここでファンとつながり、ファンの支える力を感じました。
リアルの世界で2,3番手でもサイトでは1番になれる。

すごい、「ファン」って一体、なんだろう。

あたらしく作る私の会社で、ファンの力によって企業のサービスや商品が活性するサイトを作ることができたらおもしろいな、と考え始めました。
そして社名もカワムラリュウイチオフィスや、カワムラスタジオ、デジ・K、Biz Rなど、デジタルな環境と自分の名前に由来するものを想定したいたのですが、ずばりファンを意識したものにしようと頭が切り替わりました。
こうして、会社名を3つに絞りました。

デジタルで企業とファンをつなぐ会社「デジ・ファン」
インターネットビジネスの領域で企業とファンをサポートする会社「ビズ・ファン」
企業コミュニケーションをファンとともにサポートする会社「ファンサイト」

私がこれまでもずっとやり続けていたことは、企業とファン(お客様)を結ぶコミュニケーションをサポートするということでした。
「ファンサイト」という企業サイトの考え方をサイトづくりのモデルとして実現してみたい。
名は体を現す。
幸運にも、コンセプトと業務と社名が同一なのです。

「ファンサイト」という社名を迷いなく、選ぶことができたのです。

自明なことは失って初めて気がつくのでしょうか。
友人と弟という大切な存在を失い、これまでいかに自分の存在を曖昧にしてきたかがわかりました。
起業していくプロセスでたくさんの態度表明を迫られ、そして自ら決めてきました。
この、当たりまえの態度表明が、仕事に関わっていただく人たちに対する私の責任であり、会社のあり方なのだということが少しわかりかけてきたのです。

会社を作るということは、まさしく自分の態度を明確にすることイコールなのです。

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