第179号『切ない味』

【みそ汁】
【みそ汁】

朝型である。
6時には起き、顔を洗い、水を飲む。
掃除をし、ストレッチをする。
その後、腹筋、背筋、腕立てを30回ワンセットで3回。
そして、台所に立ちみそ汁をつくる。
朝飯はみそ汁を大振りの椀で一杯摂る。

冷蔵庫をゴソゴソとかき回し、適当な野菜の切れ端や肉、豆腐の類いをかき集める。
まずは汁に入れる具をあらかた決めておく。
今日はさつまいも、ごぼう、じゃがいも、人参、大根などの根菜類を具にする。

出汁は時々に使い分ける。
あっさりだけれども薄くはない出汁を摂るときは飛び魚のあご干とかつおの荒削りを使うが、少し濃いめの出汁を採るときは削りがつおをどっさり入れ、それに鯵干しを加える。
根菜類の具には濃いめの出汁が合う。

なべに浄水を入れ、はじめグラグラと煮立てる。
火加減を弱火にして煮立ちを静め、2~3分クツクツと旨味を出す。
削りがつおを網でまとめ、箸でギュギュと押さえて汁を絞り出す。
これで出汁が完成する。
この間、ごぼうは薄く削り、じゃがいも、さつまいもはひと口サイズに切る。
人参と大根は銀杏切りにする。
煮汁に硬いもの順に、にんじん、さつまいも、じゃがいもと入れてゆく。
箸がスッと人参に通ったらいよいよ味噌の出番である。
味噌は、年末に訪問販売で買い求めた信州味噌と昨年、所用で出かけたとき、大分空港の売店で買った湯布院の麦こうじの白味噌をブレンドしてみる。
信州味噌と湯布院味噌を2対1の割合で混ぜる。
ふたを取り、沸々とした煮汁で味噌を溶く。
いきなり鼻元に、甘酸っぱく切ない味噌の湯気が立ちこめる。
おふくろが作ってくれたのか、それとも別な誰かが作ってくれたのか、いつどこで味わったのかも定かではない。
思い出せないけれども妙に懐かしくて切ない味である。
切なさとは「切る」ことが「できない」ということである。
思いや縁が切れないということである。
おそらく、身体の奥にある日本人という遺伝子が欲している味なのだ。
コーヒーも朝には欠かせないが、みそ汁はもっともっと欠かせない。
なにしろ、今日これからの一日はここから始まるのだ。
出来たてのみそ汁を大振りの椀に盛る。
箸で具を押さえ、まずは汁を口に含む。
「旨い!」
他に言葉無し。

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