「川村君、酒を飲むなら六月、梅雨時が頃合いがいいんだよ。一年中で一番、発酵が促進されて、酒本来の旨味がでる時期だからなんだ。」
弊社の顧問であり、マーケティングと酒の師匠でもある宇田一夫から教授された。
先週、神楽坂、毘沙門天からほど近い「伊勢藤」に出かけた。
一年ぶりである。
蒸し暑い夕方、六月の夕暮れ空は明るい。
縄のれんをくぐり、中に入ると、ひやりと薄暗い。
店内の中央に、炉が切ってあり、三代目当主自ら、炭火でお湯を沸かし、燗の頃合いを見計らっている。
その姿はまるで刀鍛冶か、祈祷師のようにもみえた。
静寂にして厳粛。
酒を待つ、高揚感。
酒は灘の男酒「白鷹」のみ。
燗が基本。
お通しは一汁四菜。
今日、この席に創業当初から、教えを乞い、共に過ごした宇田師はいない。
去年の暮れ、検査入院したまま他界した。
あまりにあっけなく、あっという間に。
痛みも悲しみもあるけれど、それでも、別れや終わりはいいものだと、いまは思う。
別れの哀惜、終わりの悲嘆を経るたびに、己と向きあい乗越えてきた。
どんなことがあっても、生きているかぎり人は前を向いて行くしかないのだもの。
ふと、空いているはずの隣の席に人影を感じた。
陰影か、はたまた少し酔ったからか。
幽玄のように坐した師の幻と、盃を交わした。
「久しぶりです師匠、いろいろあるけれど、なんとかやってます」と、僕はつぶやいた。
お知らせ
宇田一夫のブログ「花も実もない!Marketing One Hit Shot」がe-Bookになりました。
3件のフィードバック
こんにちは。
らーぶさんの”スタイリッシュ”をきっかけに紹介して頂き、毎週このメール通信を楽しんで拝見させて頂いております。
上手くリンクをシェア出来なかったので、コピーしてfbに紹介させて頂きました。
宜しくお願い致します。
宇田さんと仕事で数年間ご一緒させていただいていました。
その博識ぶりにはいつも驚かされていましたが、
お酒が入ると瞳を輝かせてアイドルの話などもなさり、
ちょっとお茶目な、意外な一面も垣間見させていただきました。
あまりに突然の悲報に、ただただ呆然としましたが、
思いかけず、こちらのサイトで宇田さんの面影に接することができ、
ひととき感慨にふけることができました。
今頃天国でお酒を飲みながら、仲間と語り合っているのかもしれませんね。 合掌
藤野様、お世話様です。ご丁寧にありがとうございます。fbご紹介も感謝しております。
Kazue Saeki様、宇田さんには多くのことを教えていただきました。改めて師がいないこと、そしてそれがいかいに大きな損失かということも感じでおります。