【耐える青森犬】
15年も会社をやっていれば、苦境に立つことはしばしばある。
例えば、納品締め切りを、あと数日にして作業が遅々として進まない状態にいた
ったり、アイディアが閃かず、悶々とした状態が続いたり、支払のための資金繰
りに窮し頭を抱えていたり、と。
こんな時こそ、人間力を鍛えるチャンス到来だと、気持ちを切り替えることにし
ている。
30代のはじめ、面白半分に東横線学芸大学駅近くにある「笹崎ジム」に入門した。
(この後、ボクシングの才能がないと自覚し(笑)、モトクロスバイク→トライア
スロンとスポーツ変遷をした)
往年のボクシングファンなら誰でも知っている、ファイティング原田を擁して一
代を築いたジムである。
槍の笹崎(突き刺すようなストレートが得意だったことから命名された)のリン
グネームをもつオーナーと、アシスタントトレーナーが指導していた。
当時、ジムに住み込み、プロとして活躍したボクサーがいた。
彼の記憶はいまでも鮮明に残っている。
TV放送も少なくなり、ボクシング熱は冷めてはいたが、それでもスポーツ新聞
を飾るランキング上位のボクサーがいることは凄いことだった。
試合が近づくにつれ、目がギラギラし、普段にも増して肉体が刃物のように研ぎ
澄まされていた。
ロッカールームで雑談をした時のことだ。
「試合は怖くないのか」と、聞いた。
彼は、こう答えた。
「相手は怖くはないが、練習してないと怖い」と。
自分が怠けていることを、誰よりわかるのは自分だから。
だから、鍛錬し続けるのだと。
自分のダメな状況をイメージできることは悪いことではない。
その状況に対していつも恐怖を抱いているから、人の何倍も努力する。
なにごとも、限界ギリギリな状態は人を強くする。
いや、限界ギリギリな状態でしか、人は強くなれない。
行動力・粘り強さ・明るさ・バイタリティ・ストレスに耐える力・目標を達成し
ようとする意欲。
こうした力は苦境に立たされ、はじめてフツフツと体内から湧き出てくるものだ。
人として、もっともっと成長したいから、これからも自分を信じ、苦しい峠を乗り
越えていきたい。