第738号『DNF』

【追浜日産自動車工場で】

6月18日日曜日、曇のち雨のち嵐。
横須賀市追浜にある日産自動車工場内で、第31回ニッサンカップトライアス
ロン大会が開催された。
距離は、スイム1.5キロ・バイク40キロ・ラン10キロのオリンピックディス
タンス(ODと言う)。
近年、オリンピックの全競技のなかでも、トライアスロンはベスト10に入る
ほど人気(日本ではまだまだマイナーなスポーツだが)がある。
このオリンピックで争われる時の距離がODである。

レース会場まで、自宅からわずか8キロ。
バッグにウェットスーツや着替えのウェア、シューズなど詰め、それを背負
って自転車で走る。
丁度よいウォーミングアップ運動だ。

会場につき、選手受付や競技内容の確認をしながら、準備をする。
このコースの特徴は、自動車工場内の敷地を利用して行われるため、周回コ
ースとなっており、バイクもランも数回同じ道を往復する。
ちなみに、スイムは普段輸出用車を運ぶ大型タンカーが着岸する海で750メー
トルを2往復、1500メートルを泳ぐ。

しかし、この日スタートの時間が近づくにつれ、天候は荒れ模様。
曇り空から、雨がぽつりぽつりと降り出し、風も強まり波のうねりも強く、
激しさを増すばかりである。
スイムスタート直前に大会本部から(危険を回避するためとの判断で)距離
が、半分の750メールに変更することが急遽決まった。
それでも、荒れた海で泳ぐことには違いはない。

海に入り、フローティングしながらスタートの合図を待つ。
その間も、波が上下左右に激しく揺れる。
ポ~ンという、状況の厳しさとはかけ離れた、幾分間の抜けたような合図と
ともに泳ぎだす。
いつもなら、20分もかからず泳げるのだが、この日スイムは24分と随分苦戦
した。
ともかく真っ直ぐ泳げない、そして左右から波を被るので、息継ぎがまった
く上手くいかない。

それでも、なんとか苦手なスイムを終え、あとはバイクとラン。
バイクは最近練習でも調子がいい。
周回コースを6周回走るのだが、何回廻ったか、疲れも手伝ってカウントに
不安がある。
そのために、計測器を車体に付け距離を測る。
時々、計測器に目をやりながら距離を確認する。
こうして、何回となく計測器を見ていた。
1周、2周と回を重ねるごとに、雨風が激しく強くなっていく。
突然、デジタル数字の表示が点滅(ついたり消えたり)している。
そういえば、この計測器は雨に弱いから、雨の日はサランラップで包んで置
かないと、コーチから言われたことを思い出した。
それでも、なんとか数字が読み取れる。
40キロの数字を確認(したはずだった)、バイク終了。

バイクを置き、ランへと移る。
この時、少し違和感を覚えた。
50~60歳代(年代別にスタート時間や自転車のラック場所が分かれている)
の置き場にバイクがほとんどない。
残念ながら、ボクはそんなに速くはない。
(やっちまったかな、)ひょっとして距離を間違いたのではないか。
不安な気持ちになったが、いまさら引き返すこともできない。
このまま、競技を続行すると決めた。

ランは、2.5キロのコースを4往復。
ひたすら、豪雨の中を走った。
雨でびしゃびしゃの靴。
靴の中で、素足の皮膚はふやけ皮が薄く剥げヒリヒリと痛い。
走りはじめて(回りを走るゼッケン番号でわかるのだが、ボクと同じ年代の
選手が一人もいないのだ)この日、ボクはバイクで周回数を間違ったことが
はっきりと分かった。
計測器に頼りすぎ、自分の感覚を軽んじた結果でもある。
恥ずかしさと悔しさと、足の痛さをない交ぜにしながら、なんとかゴールま
でたどり着いた。
しかし、結果はDNF(Do Not Finish)。

一刻も早く帰りたい。
ボクは、そそくさと荷物をバッグに詰め、激しくふきつける雨風のなか、寒
さと、悔しさで顔がぐちゃぐちゃになりながら自転車で自宅まで走った。

実は、これからもう1つ競技(のような)がある。
それは、片付け。
濡れてた自転車をきれいに拭き、同じくびちょびちょのシューズ、ウエアや
タオルを洗濯し干す。
自分もシャワーを浴び、ようやく一息付く。
間をおかず(電車とバスで乗り継ぎ)応援に来てくれた、妻も買い物をして
帰宅。
そこから、熱いチゲ鍋を用意してくれた。
ビールで残念な気分と今回も無事にレースを終えたことに感謝し、乾杯。

ベストを尽くしたが、失敗した。
まぎれもなく、DNFという厳然とした事実。
でも、これだけは言える。
失敗することを恐れるよりも、挑戦を諦めることを恐れたほうがいい。

少し酔もあってか、元気が出てきた。
よし、気分を切り替え、次へ!