本来、コトやモノを限定することは、豊かを手にする最良の方法である。
しかし、限定することが、選択の幅を狭め、みすみす豊かさを手放す愚行であるかのように言われた時代もある。
だから、例えば新幹線も高速道路も文化会館も工場誘致も全てを手に入れずには済まない事態が、しばらの間、この国に蔓延した。
結果、新幹線の通った八戸であれ、新潟であれ、広島であれ、その駅前はどことなく似た景観となり、地方都市に点在する文化会館は建造物だけは立派だが、出し物がないという現状が続いている。
そして、企業誘致はしたものの不景気によるリストラばかりか、工場そのものが、より安い労働力を求め中国やアジアに移転し、その残骸が廃墟として雨風に晒されている。
こうした事情は、日本のスポーツ界にも暗い影を落としている。
野球、バレーボール、バスケットボール、アイスホッケーなど、名門といわれた多くの企業のスポーツクラブが廃部に追い込まれた。
結果、日本のスポーツ界は激変し始めている。
先日、日本初のプロバスケットボールチーム、「新潟アルビレックス」を運営している(株)新潟スポーツプロモーション代表取締役、河内敏光氏にお会いした。
河内氏は京北高校から、明治大学を経て三井生命で10年間プレイをし、全日本代表としても活躍された。
そして現役引退後、三井生命の監督を務め、この間アトランタオリンピック時の日本代表チームの監督、さらに福岡ユニバーシアード大会では全日本を準優勝に導いた日本バスケットボール界のリーダーの一人である。
「新潟アルビレックス」は現在、サッカーJ2での活躍や熱狂的なサポーターでも知られてるが地元新潟では、プロバスケットボールもサッカーに勝るとも劣らないほどの人気なのである。
「なぜ成功しているのか?」の質問に明快な答えが返ってきた。
「それは、選択の幅があまり無く、ほかにバッティングするものが少ないからですよ」と。
開幕シーズンともなれば地元の新聞やテレビ局がこぞって取り上げ、さらに地元企業がバックアップしてくれる。
地域の定期的なイベントになり、そこに毎回多くのファンが集まる。
商店街もそれが定期的な売上げに繋がることがわかり、ならばもっと積極的に応援しよう、と。
だから、新潟市内でも周辺の郡部での集客も良く、グッズもよく売れるというのである。
新潟の風土に合うように米も酒も自分たちが手塩にかけ、育ててきた。
ならば、サッカーもバスケットも自分たちが地元で育てていけばいい、ということである。
なるほど、「ないものねだりはもう止めよう。文化は与えられるものではなく、自らが育てていくものなのだ」ということか。
そうしてみると、すべてを手にしなければ豊かではないという呪縛から解き放たれたとき、本当の豊かさの姿が見えてくるのかもしれない。