第837号『オンザピッチ・オフザピッチ』

【カリキュラム】

先月、9月20日(金)から一泊二日で、「日
本マーケティング塾」の講座を(会場はオンワ
ード総合研究所にて)担当した。

今回で6回目。
会を重ねても、毎年緊張する。

受講生は、それぞれの参加企業から選抜された
(次代のリーダー候補生)部課長クラス。
今回の参加企業は、食品関連企業M社・製造関連
企業B社・システム関連企業A社など日本を代表
する名だたる企業ばかりである。
余談だが、このセミナーの参加費は一泊二日での
全5回で、1名で918,000円。

以下は講座の流れである。

15時から18時までは「企業ファンサイト実践
編」と題して3時間の座学。
夕食を挟んで、19時から23時まで「グループ
演習」として3つの班(4から5名で1チームを
編成)に別れ、各班ごとに模擬的にファンサイト
を一晩かけて構築する。

翌朝、朝食後、8時30分から再びグループ演習
の続き。
そして、10時30分から12時まで「グループ
演習の発表と討議」。
プレゼンテーションが終わり、僕の総評で締めく
くる。

いつもなら、講座終了後、虚脱と放心状態で早々
に会場を後にするのだが、午後からの講義で法政
大学スポーツ健康学部教授、清雲栄純先生のお話
が聞きたくて、主催者にお願いし居残る。
この日のお題は「真のリーダーシップとは」、副
題は「~オンザピッチ・オフザピッチ~」。

先生のプロフィールである。
法政大学を卒業後、1973年に古河電気工業に
入団。
翌年には日本代表にも選出。
引退後は古河のコーチへ転身。
1984年からは監督となった。
1992年には日本代表コーチ、1994年には
ジェフ市原の監督に就任。
その後はU-18日本代表監督、大宮アルディージ
ャGM、ジェフユナイテッド株式会社取締役など
を歴任し、母校の教授となられた。

僕はたまたま、清雲先生がオフト監督時代の技術コ
ーチだったことを知っていた。
ひょっとすると、あの「ドーハの悲劇」を目の当た
りにした当時の話が聞けるのではないかと思い、末
席にいた。

思ったとおり当時のJリーグの事情と、日本代表のも
ろもろのエピソードを伺うことができたが、それに
もまして示唆に富むお話を聞くことができた。

副題であるオンザピッチ・オフザピッチについてで
ある。
南極海に浮かぶ氷山を例にとり、試合でピッチに立
っている(表面に出ている部分)のは全体の2割。
じつは、(海の下にあり、見えない)8割のオフザ
ピッチでのあり方が大事なのだ、と。

そもそも、サッカーやラグビーは野球と違い、試合
が始まるとコーチや監督の指示で動くのではなく、
選手の判断で行動を決める。
そうした意味でもゲームは、選手たちのものである。

だから自分たちで考え、行動する基準を身に着けて
もらうための方法や考え方を指導することが、コー
チや監督の役目だ。

いくつか、ノートに箇条書きにしたメモの写し書き
である。

一人ひとりのタスク(能力向上のための作業)とは。

・技術の向上
・戦術の理解向上
・体力の向上
・メンタルの強さの向上

自分を成長させるためのベースとは。

1.オーバーロード(過負荷)の原則
前回のトレーニングよりも少しでも(重さ・速さ・
回数)超える負荷をかける。
2.トレーニング効果(超回復)の確認
意識して栄養と休養を取る。

自分をマネジメントするための基本とは。

・Vision(存在目的を明確にする)
・Mission(達成目標を掲げる)
・Organization(実行体制を理解する)
・Strategy(戦略を共有する)

チャレンジするために備えるべきベースとは。
・Anticipation(予測・予期する力)
・Initiative(主導権を握る力)
・Communication(コミュニケーション力)
・Responsibility(責任感)

どの項目も、すぐにでもビジネスにも、生活の指針
にも応用できそうなものばかりである。

最後に、アンダー18の監督をしていたとき、指導
していた小野伸二選手のエピソードを話してくれた。
合宿所に集まった初日、食事の後、小野選手が清雲
さんの元に来た。
そして、食事を作ってくれたコックさんや食事担当
の方々に会いたいと言ってきた。
何事かと思い、調理場に一緒について行った。
すると、小野選手はコックはじめ、配膳係の方々に
深々と頭を下げ「今日のお料理を美味しくいただき、
安心してこの合宿期間中、トレーニングに没頭する
ことができます」と感謝の言葉を述べた。
清雲さんが、ふと周りを見ると、皆、下を向き泣い
ていたという。
この合宿の間、お料理関係のスタッフは当然のこと
ながら、小野選手とこのチームを応援した。

すでに、試合は始まっていた。
オンザピッチの前のオフザピッチで。