【本棚】
ある日、本を書こう(詳細は850号で)と思った。
その経緯と想いをお伝えすべく、『本を書く』シ
リーズを始めた。
そして今回で5回目。
そろそろ、本のタイトルを(仮題でもいいから)
考えたい。
2006年に上梓した『企業ファンサイト入門』
を執筆していた時、本はタイトルに向かって書く
ものだと、日刊工業新聞社書籍編集部の鈴木徹氏
に教授いただいた。
当初、2000年に開始した、キリンシーグラム
社のウイスキー、ボストンクラブのファンサイト
「(サイト名:極楽クラブ」をいかにして企画し
運営したかの経緯を綴る目的もあり、タイトル名
を『極楽クラブの秘密』として執筆を開始した。
しかし、この『極楽クラブの秘密』というタイト
ルでは、僕が伝えたいメッセージとの間に、大き
な隙間があり、タイトル名と内容が書けば書くほ
ど離れていくように感じた。
なんだか、収まりが悪い。
本のタイトルとは何か?
本文に書かれた内容を、一言で表したものである。
平たく言えば、キャッチコピーである。
誰に読んで欲しいのか?
そして、どんな想いを伝えたいのか?
自問しながら正式なタイトルを保留したまま、6
割ほど進んだところで、ふとタイトル案が思い浮
かんだ。
顧客とのコミュニケーションを担当される方はも
ちろん、これからウェブ関連でビジネスを考えて
いる方、そして仕事で一歩踏み出すことに躊躇し
ている方に、読んで欲しい。
しかも、インターネットという新たなステージで
のコミュニケーションの有り様に戸惑っているす
べての人に、知らないという問から、「なるほど」
と気づいていくプロセスをわかりやすく伝えたい。
まさに、入門書のような本にしたいと思った。
このアイデアを、担当編集者である日刊工業新聞
社の鈴木氏に伝えた。
鈴木氏は即座に「いいですね」とにっこりと笑い
ながら頷いてくれた。
そして、しばらく間を置き、ゆっくりと、だが、
きっぱりと、言葉に発した。
「入門書ということであれば、入門書にすべく、
これまで書いてきた文章を大幅に書き換えてもら
う必要があります」と。
こうして、一から「入門書」として書き直すこと
になった。
いまでも、その言葉を聞いた瞬間、全身から、い
やな汗が出たことを覚えている。
さて、2006年『企業ファンサイト入門』上梓
から、15年経ちインターネット環境も、その存
在意義も変わった。
2002年、ファンサイトを法人として起業した
当初、僕の頭の中に漠然とあった「ファンサイト
」の発想のモデルは、エリック・レイモンドが1
997年に書いた『*伽藍(がらん)とバザール』
だった。
みんなが集まり、やりたいと思った人たちが、面
白がって作るOS(Linuxモデル)のような世界観を
イメージしていた。
こうした考え方のベースには、1960年代、カ
リフォルニアを中心としたカウンター・カルチャ
ーを標榜していたヒッピーたちのリベラルで反権
威的なものが色濃く残っていた。
余談だが、パーソナルコンピュータ、ダイナブッ
ク(東芝ではない)を開発した**アラン・ケイ
にしろ、ステーブ・ジョブズにしろ、こうしたパ
ワーエリートたちが野心的で革新的な商品やサー
ビスを生み出し、市場に展開していった。
彼らもまた、60年代のヒッピーカルチャーの洗
礼を受けた先駆者である。
こうした先人たちの力が、今日のシリコンバレー
の起業家たちに受け継がれ、グローバル資本を生
み出す流れを形成している。
余談が長くなった。
本題に戻ろう。
これからの「ファンサイト」の形とは、かつての
「Linux」モデルのような、誰でも参加できるバ
ザールのような開放的な姿ではないのだろう。
もはやインターネットは、健全な民意を下支えす
るものという神話は崩壊し、歪んだポピュリズム
に加担し、自由と平等を脅かす存在になってしま
った。
こうした現状のなかで、知恵ある人々は、巨大化
したSNSから離反し、別なつながりを模索し、求
めはじめている。
質の良い情報は有料サブスクリプションのサービ
スにあるし、信頼のおけるコミュニティサイトは
どんどん閉じた(メンバー限定などの)方向に進
んでいる。
いわば、コミュニティの再構築、あるいは人間関
係の結び直しが新しく始まっているのではないか。
タイトルとして、こうした変化の振動を言葉にし
たいのだが・・・。
まだまだ迷走しそうだ。
『本を書く-6』へつづく。
*伽藍とバザール
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