第863号『杞憂』

【太陽の塔】

『わたしは、ダニエル・ブレイク』『家族を想う
とき』ケン・ローチ監督83歳、『運び屋』『リ
チャード・ジュエル』クリント・イーストウッド
監督89歳、『男はつらいよ お帰り寅さん』山
田洋次監督88歳。
いずれも80歳を越えて今なお、ほぼ毎年のよう
に良質な映画を製作しつづけている監督たちであ
る。
偉大な先達の頑張りに、勇気づけられる。

さて、コロナ禍の中、巣ごもりをしてからの習慣
の1つが、自宅での映画鑑賞である。
久々に、古い映画を見直そうと妻と話し、山田洋
次監督作品『家族』(1970年公開)を観た。
物語は、一家の大黒柱である精一(井川比佐志)
が、長崎県伊王島の炭鉱での仕事に嫌気が差し、
友人の誘いで北海道の開拓村に入ろうと決意する。
そんな精一を献身的に支えてきた妻の民子(倍賞
千恵子)は北海道への同行を渋るも、民子の言葉
に耳を貸さず、結局幼い長男と乳飲み子の次女を
連れて家族で北海道に移住することに。
精一の父(笠智衆)を含めた家族5人の伊王島か
ら北海道へ向かう道中は、急行列車を乗り継ぎ、
連絡船に泊まるという、子どもや年寄りには辛い
旅だ。
途中立ち寄った、万博で盛り上がる大都会大阪に
戸惑い、そして東京に到着した一家にさらなる試
練が訪れる。・・・
当時の高度経済成長期の東京や大阪をドキュメン
タリータッチで活写し、日本が大きく様変わりし
ていく時代を映画を通して描いた作品でもある。

本作は『故郷(1972年)』と『遥かなる山の呼び
声(1980年)』を加えた民子3部作と呼ばれる作
品の1つである。
いずれも傑作であるが、民子を演じた本作の倍賞
千恵子の健気さと、『道』のフェリーニ監督や『
自転車泥棒』のビットリオ・デ・シーカ監督のよ
うなイタリア映画を思わせるような風情があり、
山田洋次監督作品のなかで、僕はこの『家族』が
一番好きだ。

鑑賞し終わって、気になったことがある。
いま、コロナ禍の最中、そしてアフターコロナの
1年後2年後を想像するだに、ある種の無力さを
感じた。

2021年に延期された東京オリンピック、それ
に続く2025年大阪万博、2030年札幌冬季
五輪(先ごろ開催地立候補が決まった)。
コロナを抱えた社会と、半世紀余りの歳月を経て、
今更ながらデジャブともおもえる祝祭(当時の成
功体験)の再現が出来るとでも思っているのだろ
うか。
芸人、ikkoの「まぼろしー」と軽口を叩きたくな
るほど、しらけて見える。

安倍政権の筋書きとしては、国家発揚と経済成果
の果実を手にすると目論んでいるのだろうが、も
はや来年開催されるかどうかも危ぶまれる。

もし、仮にこのまま来年オリンピックが開催され、
さらに万博が続き、この、国家をあげての巨大な
祭典の場で、世界に向けて発信するものが「日本
すごい!」のメッセージであれば、あまりにも重
い負の遺産と負債が残るだけではないか。
そうなれば、この国の未来は破滅的だと言わざる
を得ない。

巣ごもりの日々、少しネガティブな気持ちになっ
ている爺の戯言である。
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お知らせです。
このままずーとお休みが続くのではないかと、先
行きが見えず、不安ままGWに突入しましたが、フ
ァンサイト通信もお休みさせていただきます。
5月8日(金)5月15日(金)の2回。
次号開始は、5月22日(金)からの配信予定です。
引き続きご高覧のほど、よろしくお願いします。