第893号『ネットが炎上』

【岩塚製菓:田舎のおかき】

昨年12月16日15時から、神田のオフィス会議室でクライアント先のA常務とT部長のお二人と打ち合わせをしていた時のことである。

会議を終え雑談をしていると、常務が「東京はよく晴れているが、北陸は大雪なんです」とポツリと言った。
続けて、「関越道がドカ雪でまったく動かず、せんべいを運んでいるトラックも大変なことになっている」と話してくれた。
当初、その意味がよく飲み込めず、僕は「はぁ」と曖昧に相槌をしたが、一方でロジスティクスの担当でもないのに、そんな情報まで知っているのかと、常務の目配りに少し驚いた。
翌日、常務の言っていた大雪での出来事は、新聞やTVで関越自動車道で2100台もの車が、雪で立ち往生している事件として報道であらためて確認することができた。

この会社は新潟県長岡市に本社を置く、おせんべいやおかきなどの製造を行っている岩塚製菓株式会社(ジャスダックスタンダード上場)である。
売上高や市場シェアでは、亀田製菓、三幸製菓に次ぐ。
国産米100%使用を他社との差別化にし、「田舎のおかき」や「味しらべ」など主力ブランドを強化して、商品数を絞り込むことで生産性を向上させている。
弊社ファンサイトでは、2つのファンサイト(お子様用ファンサイト「おこせん」
と大人用ファンサイト「大人のぽりぽりクラブ」)と、ブランドや品質を伝えるためのクオリティサイトの制作と運営を担当している。

翌々日、18日の朝、携帯電話に部長から連絡が入った。
少し朗らかな声で「川村さん、ネットが炎上しています」と・・・。
僕はおもわず「えっ!」と絶句した。
そして、よくよくその状況を伺った。

部長が電話で話してくれた一連の状況を約めて言えば、つまりこうだ。
16日の大雪で立ち往生し、まる一昼夜が過ぎ、食料もない状態の中、たまたまその場に巻き込まれていた配送トラックの運転手が会社に連絡し了解を得て、積み荷のおせんべいを同じように車の中で籠城状態になっている周囲の人たちに配布した。
すると、岩塚製菓のおせんべいを受け取った方々がSNS上にこのエピソードを公開したことで、注目され一気に拡散した。

実は、注目されたことでサイトへの訪問者の方々が多くなり、その状態はいまも続いている。
例えば、HPのPV数は前年に比べ343%、SNSのフォロワー数でも前年比467%アップしている。
もちろん、売上にもその影響は及んでいる。

そもそも、岩塚製菓はTVCMなど、いわゆる広告宣伝の手法をとらずにきたメーカーである。
広告費にお金をかけるのではなく、国産米100%にこだわり、原材料費を削ることなく、しっかりとしたものづくりを標榜している。
そして、なによりもファンになってくれていたお客様とのコミュニケーションをより大切にするための施策として、3年前から「ファンサイト」を導入した。
*ファンサイト導入事例対談:岩塚製菓株式会社はこちら

さらに、昨年から商品に対する想いや考えた方を知っていただくためために「クオリティサイト」を立ち上げた。
こうしたサイトを用意していたことで、岩塚製菓とはどんな会社なのか、その製品はどんな想いで作られているのか、そして、ファンとの向き合い方はどうなのか、などなど、できる限り丁寧に伝え、そしてファンの声を聴く準備をしてきた。

今回、訪れていただいた方々からのメッセージである。

”食べ物に困っている人に対しての会社さんの判断、周りに配る優しさ、とても感動しました。私自身、黒豆せんべいが大好きです。そして一歳の子供も岩塚製菓さんのおせんべいを買っています。子供の毎回完食です。(20代女性)”

”御社の黒豆煎餅の美味しさに感動していましたが、関越道での英断で、会社としての姿勢もわかり、益々、御社のことが好きになりました。(30代男性)”

”以前から国産原料にこだわった製品が多くて良いなと思っていましたが、今回のことでさらに応援したいという気持ちが高まりました。特に最近は原材料欄をチェックして外国産を使用している商品は買わないという主婦が増えているように感じますし、私自身も少し高くても国産原料を使用した商品を選んで買っています。(20代女性)

”御社の製品は国産米を使用しており、他社と比べて雑多な材料を使用しておらず、子供にも安心して食べさせられるので、以前から好んで購入していましたが、今回のニュースを見て「やはり岩塚製菓だな」と思い、会社の帰りに思わず二袋買ってしまいました。(40代男性)”

この他にも「これまで以上に岩塚製品の商品を食べます」などの好意的なコメントが並んでおり、さらに直接、電話やメールを通じて「正直、今まで知らない会社だったけど、これから買います」という応援のメッセージも届いている。

広告とファンサイトはどう違うのと、聞かれることがよくある。

一言で言うなら広告は「俺ってカッコいいだろう」と言っている姿であり、それに対しファンサイトは「彼・彼女ってカッコいいね」と言ってもらえるよう準備をしている姿なのだ、と答えている。

企業視点で捉えるならば・製品(Product)・価格(Price)・プロモーション(Promotion)・流通(Place)のバランスで考えることがこれまでの定石であった。
しかし、顧客(=ファン)視点から見れば、顧客価値(Cutomer Value)・コスト(Cutomer Cost)・コミュニケーション(Communication)・利便性(Convenience)であろう。

4Pから4Cへ、時代はいま大きく変わろうとしている。
岩塚製菓は企業として、まさしくこの取り組みを実践しようとしている。
打ち合わせでの、常務の言葉が印象的だった。
まずは、自分たちが岩塚製菓のファンになるためにも「朝、わくわくして会社に来れる組織にしたいんだ」。