【パンフレットは買う派】
先週、春の嵐だった日曜日、どうしても映画館で映画を観たくなり、妻と上大岡TOHOシネマズにでかけた。
この日は、運良く2本続けて観ることができた。
1本目は13時5分から上映された、リー・アイザック・チョン監督作品『ミナリ』、そして50分後の16時から開始されたクロエ・ジャオ監督作品『ノマドランド』。
どちらも、今年度のアカデミー賞にノミネートされている秀作である。
時々、こうして映画や映画館を跨いで2,3本映画鑑賞のはしごをする。
なんだか学生時代に戻った気分になり、ワクワクする。
さて、この日の1本目『ミナリ』。
脚本・監督を努めたリー・アイザック・チョンの韓国移民の子として、アメリカの大地で生きてきた半自伝的作品である。
本作品は、第36回サンダンス映画祭でグランプリと観客賞を受賞している。
余談だが、サンダンス映画祭は主にインディペンデント映画を対象としたものであり、この映画祭の名称サンダンスは主催するロバート・レッドフォードが映画『明日に向って撃て!』(ジョージ・ロイ・ヒル監督作品)で演じたサンダンス・キッドからとったものである。
製作は『ムーンライト』(バリー・ジェンキンス監督作品 第89回アカデミー作品賞)『レディ・バード』(グレタ・ガーウィグ監督作品 第86回アカデミー作品賞)といったオスカー賞常連のスタジオA24と『それでも夜は明ける』(スティーヴン・マックイーン監督作品 第86回アカデミー作品賞)で受賞したブラッド・ピットが率いるPLAN Bが、タッグを組んでこの作品のプロデュースに加わっている。
いかに、本品に対する期待度が大きいかがわかる。
もう1つ余談だが、リー・アイザック・チョン監督の次回作は『Your Name』。
J・Jエイブラムス(『スター・ウォーズ スカイウォーカーの夜明け』監督・脚本)のプロデュースのもと、『君の名は』(新海誠監督作品)のハリウッド実写版のメガホンをとることになった。
そして、この作品には倅、元気もプロデューサーとして参加している。
どんな作品に仕上がるのか、いまから楽しみである。
2本目は『ノマドランド』。
本作品の監督は中国、北京出身のクロエ・ジャオ。
38歳の新鋭である。
2015年に長編デビュー作『私の兄弟が教えてくれた歌』がサンダンス映画祭でプレミア上映される。
そして、第2作『ザ・ライダー』(2017年)は批評家に高評価され、インディペンデント・スピリットの作品賞と監督賞にノミネートされ、今作『ノマドランド』へと続く。
主演は名優フランシス・マクドーマンド。
『ファーゴ』(ジョエル・コーエン監督作品)『スリー・ビルボード』(マーティン・マクドナー監督作品)で2度のアカデミー賞主演女優賞を獲得している。
余談だが、フランシス・マクドーマンドの旦那様は『ファーゴ』の監督、ジョエル・コーエンである。
もう1つ余談だが、『ファーゴ』『スリー・ビルボード』そして本作『ノマドランド』と、すべて製作はアカデミー賞の請負会社ともいわれるサーチライト・ピクチャーズ。
いい映画は偶然作られるわけではないのだと、思う。
さて、この『ノマドランド』はノンフィクション「ノマド:漂流する高齢労働者たち」(デビッド・ストラザーン著書)を原作としたロードムービーである。
これはリーマンショック以降の現象の1つとして、企業の経済破綻で住処を失ったことをきっかけに、車上生活者=現代の“ノマド(放浪の民)”として生きることを選択した人々の姿を追ったものである。
フランシス・マクドーマンドの唯一無二な存在感(風景の中に佇んでいるだけで絵になる)と、畏怖の念さえ覚える圧倒的なアメリカの大自然。
この2つの要素で、映画としてきちんと成立していることに驚愕する。
『ミナリ』と『ノマドランド』に共通するのは、大地に対する畏怖の念である。
自然を制服するのではなく、ともに生きること。
これまでの西洋的なやり方ではない、東洋的なるものの流れが必然になってきた、ということかもしれない。
それにしても『ミナリ』のリー・アイザック・チョン監督、『ノマドランド』のクロエ・ジャオ監督と、昨年のアカデミー賞を獲得した『パラサイト 半地下の家族』(ポン・ジュノ監督作品)に引き続き、アジア系のクリエーターが評価されていることは嬉しい限りである。
そして、4月26日開催の第93回アカデミー賞の行方も気になるところである。