【作品データ】
ファンサイトは、企業の商品やサービスにファンが集うサイト制作と運営の専門会社であるが、いわゆる企業HP(ホームページ)の企画と制作も受注している。
先日も食品関連企業のサイトのローンチをしたが、こうした仕事を受ける際、必ずお願いすることがある。
それは、CI(コーポレート・アイデンティティ)つまり、理念としての言葉、さらにマークやカラーなど象徴的な視覚要素を再確認するという作業だ。
つまり、商売としての品目や商品紹介、取引先といった事柄だけではなく、なぜこのビジネスをしているのか、ここに至った経緯は何かなど、企業として立っている背骨・背景を根掘り葉掘り聞くという作業から始める。
この傾聴を通して、我々はどんな企業で、お客様とどんなコミニュケーションを目指しているのかを、あらためて確認することができる。
そして、結果としてこの作業を通して自社のブランドとは何かを明確にすることにもつながる。
数日前、三菱電機による架空データでの偽装が30数年に渡り行われていたとの事件がニュースになった。
三菱グループには「三綱領」といわれる企業活動指針がある。
これは、4代目総帥である岩崎小弥太が定めたものである。
「三綱領」、所期奉公・処事光明・立業貿易。
曰く、究極の目的は社会への貢献であることを示し、公明正大な行動を旨とし、そして世界視野に立つ事業を展開すること。
不正には正義を、権謀には正直をもって行動するべきであると小弥太は説いている。
三菱電機の振る舞いは、まったくもって「三綱領」から遙か遠くに離れてしまった。
そして、ブランドも地に落ちた。
ちなみに、2019年から2020年に発覚した大企業の不祥事を上げてみる。
・関西電力幹部の金品授受・かんぽ生命の不適切契約・ハイオクガソリン虚偽表示・リクルートによる内定辞退者予測情報の販売など、企業の不正が最近頻繁に起き、普通のことのようになってきていることに底知れない怖さを感じる。
思い出したことがある。
かつて三菱を冠に持つ企業で、唯一スリーダイヤのロゴを変えた企業があったことを。
三菱化成工業株式会社(現在、三菱ケミカル株式会社)。
三菱財閥の主要企業でスリーダイヤのシンボルマークを外すなど考えられない、まったくもって前代未聞のことであった。
1982年鈴木永二氏(後に第6代日経連会長となった)が社長から会長になり、次の鈴木精二氏に社長のバトンを渡した時期である。
30歳になったばかりであったが、ご縁があり三菱化成のIR(インベスター・リレーションズ)・アニュアルレポート・会社案内など広報の仕事を受注していた。
そして僕も、このCIプロジェクトの企みに関わった。
コンサルティングはサンフランシスコに本社のあるランドーアソシエイツ、デザインはレイ吉村氏(代表的な作品として東京都・協和発酵・キリンビールハートランドなど)が担当した。
鈴木永二社長との打ち合わせで、いまだに心に残っている言葉がある。
化成とは中国の古典「易経」をもとにした、岩崎小弥太の造語。
万物化成は、宇宙万物の生成発展を意味する。
すべてのものは水の如く変化し成る。
三菱グループの一社としてあぐらをかくのではなく、変化を先取りし、新たなことに挑戦する企業にしたい。
それこそが、小弥太の創業時の言葉として「化成」に込められているのではないかと。
こうして生まれたデザインが、青い楕円のシンボルマークだった。
あらためて、確信をもって言えることがある。
企業HP(ホームページ)の制作にあたって、自社のロゴ・スローガンを明確することは最も大切な作業である。
企業として、我々は何処へ向かって、なにを目指すのか。
そして、その方法はどうあるべきなのか。
企業が社会に存在するための姿勢や価値観を明示することなしに、成立することはない。
だから、理念としての言葉を決め、ロゴマークとロゴカラーを鮮明にする。
これができれば、途中で迷っても戻るべき拠り所を持つことになるのだから。