第919号『オフィスに縛られない働き方』

【ディストピア】

先週火曜日、社員との勉強会「ファンサイトマーケティング塾」を開催した。
この勉強会は2週間に一度のわりあいで実施している。
講義内容としては、これまで僕が読んだ中でこれはと思うものを課題図書として選び、輪読し意見交換しながら、時折僕が解説を入れるというスタイルである。

今回は『マーケティングのすゝめ-21世紀のマーケティングとイノベーション』フィリップ・コトラー(ノースウェスタン大学、ケロッグ経営大学院教授)と高岡浩三(ネスレ日本㈱代表取締役社長兼CEO)著を指定図書にした。
昨年の秋から始めたのだが意外と楽しく発見もあり、飽きずに続いている。
言い忘れたが、この勉強会はすべてオンラインで行っている。

弊社では、昨年4月から神田のオフィスを取り払い、各自自宅での作業を基本とする方針に変えた。

2020年3月前半、横浜港に停泊している豪華客船から感染病が発生しているとの報道がなされていたが、それこそ外国の話だろうといった感じだった。
コロナ???
まだなんのことかもよく分からない状況下ではあったが、夏にはオリンピックもあるだろうし、おそらく都内への通勤もかなり困難なものになるだろうと予測はしていた。

3月中旬、役員の川村大輔からリモートワークに切り替えるチャンスではないかとの進言があった。
最初は聞き流していたのが、コロナが国内でもじわりと広がりはじめ、状況が刻一刻と変化していた。
考えてみれば、オフィスに社員を縛り付け、仕事をするスタイルからなんとか抜け出せないかと思ってもいた。
そもそも、僕自身が縛られるがいやだったから・・・。

うっすらとではあるが、働き方を変えるチャンスではないかと思い始めた。
幸い?弊社の業務であるネットでのコンテンツ企画と制作であれば、オフィスを持たずとも出来るのではないだろうか。
決めれば小さな組織だから動きは速い。
翌日には、オフィス解約の手続きと引っ越しの手配をした。

引っ越しをしたのはいつだったけと、日記を目繰り返してみた。

”2020年4月4日土曜日。
オフィスにある細々としたものを横浜のアトリエに運ぶため、レンタカーを借り、妻と神田へ向かう。
道すがら見た東京の街は土曜日の午後にもかかわらず、ゴーストタウンのようだった。”
まるでディストピアものの映画のような風景に、この後の不安を覚えた。

さて、働き方の仕組みをリモートワークに移行することで一番心配したのは、社員と会社との関係性だった。
ともすれば、出社することがモチベーションのスイッチになったり、組織への既属性の確認になったりしがちである。
正直に言えば僕自身そうだった。
だから、その対処の1つとして、企業はこぞって都心にカッコいいオフィスを求めたり、社員食堂などを充実させてきたのだろう。
こうした高揚感を満たすことではなく、それに変わる別な価値を共有することはできるのか?

価値が変われば、仕事の仕方も変わる。
それは例えば、何処に住んでもいいということであり、好きな時間に仕事をしていいということである。
仕事と自分の関わりを適時にチューニングしていくこと。
そのためのツールはいま、山ほどある。
仕事のデータや作業進行管理のためにBacklogを採用し、ジョブごとの連絡ツールとしてSlackを使っている。
実際、社員のひとりは先月、埼玉県から福井県坂井市へと移住し、ここからリモートで仕事の打ち合わせや、勉強会に参加している。
いまのところ、極めて上手く運用できているが、本当の答えはこれから様々な実験的な試行錯誤を経て見えてくるのだろう。

差し当たり僕にできることは、各自の仕事環境を整えることへの支援と、個々人が成長するための後押しをすること。
そのための1つとして、勉強会「ファンサイトマーケティング塾」を開催している。
そして、もう1つ実施しているのが「おやつタイム」である。
こちらは原則として毎週金曜日の午後1時間ほど。
各自お茶とお菓子を用意し、画面越しにテーマも何も決めず井戸端会議風の雑談をしている。
何ということもない、このゆるい時間を共有することが、実はとても有効なような気がしている。

コロナが続く中、こんな感じでオフィスに縛られないファンサイトは、なんとか2年目中盤を戦っている。