第921号『55年目のニューアル』

【岩塚のおこさませんべい】

2017年にファンが集うサイト、岩塚製菓株式会社のお子様用せんべいのファンサイト「おこせん」を始動した。
そして、翌年には同社の主力商品のファンサイト「大人のぽりぽりクラブ」をローンチした。

おかげさまで、ファンの数も1万人を超えた。
プレゼント欲しさのキャンペーンにつられた物見遊山客ももちろんいるが、むしろこちらからの問いかけに、きちんと意見を返してくれるファンの多さに驚く。
その証左として、先日も新商品の口コミ応援団として100数十名を募ったところに、一桁違う数千名からの応募があった。
この事実には、正直(もちろん嬉しいことであり、我々が望んでいた姿ではあるが、一方で出来過ぎではないかと)驚いた。

さて、今年はじめ担当の取締役から「おこさませんべい」のリニューアルの話しを聞いた。
今年で55周年を迎えるロングセラー商品である。
しかし、近年「パッケージが時代と合っていないのではないか」「もっと今のニーズに合わせられないだろうか」といった声が内外から漏れ聞こえ、様々に苦戦を強いられていると聞いていた。
こうしたことを踏まえ、「おこせんリニューアルプロジェクト」を立ち上げたいのだが、いろいろと意見が欲しいとお声がけいただいた。
そして、この時、彼が発した言葉が印象に残っている。
「川村さん、僕はこの商品をリニューアルするにあたって安易にキャラクターを使うことはしたくないんだ」と。
「確かにKちゃんやSジローやAマンといった人気キャラクターを採用すれば、それなりに売上を作ることができるだろうが、しかしそうはしたくない」と。
「キャラクターを使えば、この商品の価値が失われるし、合わないと感じているんだ」と続けた。

ガツンと僕の心に火がついた。
企業は必ず侍(信念を持ち実行する人)がいる。
間違いなくここにも侍がいた。
絶対に応援したい。
こんな出会いがあるから、この仕事は止められない。

そして、基本的な方向性を議論するためにレポートを提示した。
以下がそのときのものである。

「おこせんリニューアルプロジェクト」の指針
発売から55年を迎えるロングセラー商品であり、愛され続けている「岩塚製菓おこさませんべい」をリニューアルする。
どんな商品として生まれ変わるべきかを考えるため、前提となる3つの着目点を挙げたい。

●1つ目の着目点は「おこさませんべい」は岩塚製菓の象徴的な商品であるということ。

そもそも、この商品は失敗から誕生した。
世の中には、失敗から生まれたヒット商品やロングセラー商品が多々ある。
ポストイット、ペニシリン、コカ・コーラ、電子レンジ等など。
そして「おこさませんべい」も。

このお話は、長岡市の本社にて槇春夫社長から直接伺ったものである。

”ある日、担当の社員がお米を水に浸けていたことを忘れ(初デートで、気もそぞろになっていたのかもしれない)、映画を観に行ってしまった。
会社に戻ってきて、慌てた。
本来の時間より大幅に水に浸けたお米が真っ白になっていた。
この状態では、通常のお煎餅を作ることはできない。
さて、どうしたものかと思案したが、覚悟を決め上司に正直に事情を話し相談した。
すると、上司から思いも掛けない発案があった。
どうせ捨ててしまうくらいなら、このお米でお煎餅を作ってみようということになった。
そうして、出来上がったお煎餅を見て驚いた。
真っ白なお煎餅が出来上がった。
これを口にすると、柔らかくふわっとした口溶け。
これまでの、茶色で堅いお煎餅とはまるで違っていた。
この一連のことを先代の社長に話すと、これを子供用のお煎餅として売り出してみようということになった、と。”

この失敗談を槇社長は嬉しそうに語ってくれた。
このお話を伺い、僕は岩塚製菓の心の底にある精神(スピリッツ)が見えたような気がした。

それは、ポジティブな柔軟さ・苦境を乗り越えるアイデア・新しい市場へのチャレンジ。

自らの失敗を素直に述べ、それを受けた上司がともかく作ってみようと諦めなかったこと。
さらに、白く柔らかい煎餅を子供用として展開した発想と行動。
岩塚製菓の「おこさませんべい」はこうして誕生したのだ。

「おこさませんべい」リニューアル後も、ポジティブ・アイディア・チャレンジという3つの遺伝子を受け継ぐ岩塚製菓の象徴的な商品として位置づけたい。

●2つ目の着目点は「リニューアルしても新しい古典=定番」商品であること。

これまで55年に渡り、愛されてきた定番商品である。
「おこさませんべい」は固形食として人生で最初に口にするもののひとつである。
だから、徹底的に安心で安全な食品である事実をきちんと伝えることは必須。
使用しているのは、日本のお米100%と国産の砂糖と塩だけ。
定番商品は嘘をつかないということを明確に示したい。

定番になる商品にとって重要なことは、シンボリックでありながら、「らしさ」を失っていないこと。
だからこそ、商品の中身、包装、デザイン、そして売り方にこだわる。
次の50年後100年後へ向かうためにも、本気でこの分野の定番として売上も知名度も1番になることを目指したい。

●3つ目の着目点は「ファンと共に成長する」商品であること。

いまや、テレビコマーシャル(大声で叫ぶスタイル)をすればいいという時代ではなく、静かにその商品の意味を語る。
そうして、人に伝えたい魅力的な物語がありファンを応援する仕組みがあれば、自ずと人から人へと伝搬していく。
現在、「おこせん」「大人のぽりぽりクラブ」という2つのファンを応援する仕組みが可動している。

どちらにも、積極的に自分の言葉をもち語るファンが参加しているサイトである。
だから、ファンの意見を傾聴し、ファンを通して商品の価値を伝えることが可能である。
実際、「おこせん」に集う子育て中のママたちにアンケートをお願いし、さらにリモートによるミィーティングも重ね、様々な実体験から湧き出る熱いご意見をいただいた。
今回、「おこさませんべい」のリニューアルに際してこうしたママたちの声を確実に反映することができた。

今年春から続けてきた議論と商品開発の試行錯誤の末、9月6日、遂にリニューアルした「岩塚のおこさませんべい」が店頭に並んだ。
ぜひ、近くのスーパーやドラックストアの陳列棚から手にとって見てください。
そしてご賞味いただきたい。
赤ちゃん(個人的感想であるが大人が食べても美味しい)が最初に出会う固形食として、自信を持っておすすめします。