第1074号『新撰組はなぜ強かったのか?』

江戸末期、維新の動乱の最中、腕に覚えのある剣豪たちが、かの田舎侍集団である新撰組との斬り合いに後れをとり、落命した。新撰組の剣法は、敵よりも早く剣を抜き初太刀でダメージを与えること、また敵よりも多く剣を振り回すことだった。これが実践剣法の極意であり、道場剣法育ちの高名な剣士たちが破れた理由だといわれている。

重ね合わせてみれば、この戦法はかつてのシリコンバーレーの戒め「早くに失敗せよ、安く失敗せよ、そして先に進め。」と同じ発想である。ITベースのマーケティングはスピードと気軽さが強み。時代の動き、人情の機微や移り変わりにも機敏に対応する必要が今日ますます求められている。

例えば、総合アパレルメーカー三陽商会。昨年の夏は記録的な猛暑、35度を超える猛暑日が過去最多となった。こうした夏がほぼ毎年のようになり、いまや猛暑の夏が当たり前であり、長い夏ということを織り込んだマーケティング戦略を策定する必要がある。そこで、商品販売スケジュールのカレンダーを従来の「春・夏・秋・冬」の四季から、「春・夏・夏・秋・冬」の五季に変えた。夏を5ヶ月間と捉え、5月から7月までを「初夏・盛夏」、8月から9月までを「猛暑」と位置づけ商品展開カレンダーを変えた。こうして、夏が2ヶ月増えたことにより、春と秋を1ヶ月減らし、従来の春物と夏物の生産量7対3の構成比を変え、24年の夏物は35%ほど高めたことにより、売上を伸ばすことができた。また、「一平ちゃん」「チャルメラ」の明星食品は、昨年度値上げしても販売個数が落ちなかった。その理由は価格階層を従来の3層から5層にしたことだ。これまでの「高級」「レギュラー」「低価格」から「高級」「レギュラー」「プレミアム低価格」「低価格」「超低価格」へと。従来の低価格帯に、安いだけではなく増量が特徴の「格安プレミアム」と、価格をさらに抑えた「超低価格」の3つのゾーン細分化をした。こうして、消費者の状況により細かく対応することが可能になり、販売個数を維持することができた。

三陽商会や明星食品の事例から見えてくるのは、「買う理由」を明確にしていること、そして、状況(気象の変動や物価高といった)に対しての変化の速さである。

命がけの戦いが始まっている。斬られる前に切らねば負ける過酷な時代に、従来のデータ主義に寄って立つのでは余りに悠長。想像力のない管理者や事なかれ主義者のためのプレゼンにしか役立たないステレオタイプのデータづくりに、貴重な人材の知恵と時間を浪費することよりも、「まずはやってみる」の実践にもっと意を注ぐべき時だと感じている。

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