9月18・19日、日本プロ野球選手会は日本プロ野球組織(NPB)との団体交渉の結果、日本プロ野球史上初のストライキを決行した。
交渉決裂の理由は近鉄バファローズとオリックス・ブルーウェーブの球団統合延期と球団の新規参入の問題であった。
なぜ、ストという極端な結論が出たのか。
「とんでもない事態」はある日突然には起こらない。
それは、もともと内在していた問題を、極端な結論が出るに至るまで隠蔽していたからである。
つまり「とんでもない事態」になるまで放置した結果なのである。
これまで、相撲を除けばスポーツを楽しむということは野球を見ることとイコールであった。
しかし、いまのままのプロ野球では政治や経済の世界と同様、変化に耐え得ないものとして早晩、淘汰されるであろう。
混迷し、硬直化した日本のプロ野球とは対照的な野球チームとリーグがアメリカに存在することを新聞で知った。
(毎日新聞、9月1日に掲載「米地域球団の挑戦」から一部を抜粋)
地元密着を特色とする独立リーグである。
独立リーグはメジャー、3Aなど大リーグ機構に属さないプロ野球リーグであり、球場収容人数は4000~6000人程度。
現在、北米に5リーグ、46球団で公式戦を行っている。
その中でも、きわめてユニークな経営をしているのが独立リーグ「ノーザンリーグ」に所属し、ミネソタ州の州都セントポール市に本拠を置くプロ野球チーム「セントポール・セインツ」である。
では、このチームのどこがユニークなのか。
答は「エンターテインメント」。
アメリカ野球界に「エンターテインメント」という新風を吹き込み、地域重視と優良経営を両立させる経営モデルを確立している。
例えば、
左翼フェンスの奥にやぐらが組んである。
ここに「パフォーマンス、プール&スパ」と名付けられたジャグジーの特別席を設けた。
ジャグジーで日光浴をしながら野球観戦が楽しめる。
バスタオル、プログラム、ホットドッグや飲み物などが付いて4人で125ドル(約1万4000円)。
シーズン開始前に全試合分完売する。
例えば、
右翼ポール際フェンスのすぐ上、大きな広告看板の前に、観客の一人がロープで宙づりにされている。
左手にグローブはめ、ホームランを待つ。
運よくホームランボールをキャッチできれば1万ドル(約110万円)がもらえる。
だめでも、試合終了までいれば、広告主のホテルからスイートルーム宿泊券2泊分が贈られる。
スポンサーも広告の注目度が高く、払った分の効果は十分あると満足気である。
例えば、
観戦しながら散髪やマッサージができる。
例えば、
イニングの合間にファンサービスのジャガイモ皮むき競争や着ぐるみを着ての相撲大会や玩具のバズーカ砲で、グラウンドから観客席にTシャツを打ち込んだりと様々なアイデアで観客を飽きさせない。
こうして、6329席のホームゲームチケットはいつも売り切れ状態。
チームのモットーは「Fun is Good!(楽しいことはいいことだ)」と、文字通りファンを楽しませる仕掛けが球場に満載している。
観客の半数は女性、子供。
6000人の観客のうち、野球そのもを見て楽しむのはせいぜい2000人、あとの4000人の心をどうつかむか。
そして、球場に何度も足を運んでもらうにはどうすればいいのか。
そのアイデアが勝負だと経営スタッフは語る。
所詮、「エンターテインメント」などあだ花でしかないという反論もあるだろう。
勿論、野球そのものの技量を見て楽しむことが本来の正しい姿であることも否定しない。
なにが正しいか正しくないか、それはそれでもちろん重要な問題である。
しかし、それぞれに個別な判断の過ちがあったとしても、多くの場合、それは後で訂正すればよい。
その過ちを認める勇気さえあれば、たいがいの場合取り返しがつく。
しかし、想像力を欠いた狭量さや、非寛容さ、剥奪された理想や硬直したシステムはかたちを変え、いつまでも続く。
そこに救いは無い。