第139号『まるごと』

心を砕いて進めていたプロジェクトから降りた。
そして、しばらく仏頂面の自分と対面していた。
どうにも、憂鬱な気分を変えることができない。

「そんな時は時間と空間をずらしてみるといい」友人からのアドバイスと誘いもあり、ロスアンゼルス近郊、ロングビーチ市に出かけることにした。

ここ数年、仕事以外で旅行をしたことがなかった。
とりあえず、インターネットで一番安いエアチケットを探す。
次に、1週間無理やりに時間を空ける。
10日後、成田からLAXへ。
早朝、ロスアンゼルス空港に到着した。

空港のビルを出ると少し肌寒い。
仕事では何度か訪れているが、なんだか気分が違う。
そして、友人宅へと向かう。

到着翌日、日曜日の朝、シャンペンブランチに行こうと誘われた。
「45ドルのシャンペンブランチ?」
「少し高いけど朝からシャンペンか・・・いいね!」

快晴、風も穏やかである。
車に乗り込み、30分ほど走る。
高速道から出てすぐ、目的地「スパゲティーニ」が見えた。
ここは、カリフォルニア州、ロングビーチ市郊外にあるイタリアンレストランだ。

店内に入り、座席に着く。
周りを見渡せば人種、老若男女、服装、種種様々。
インテリアも気取り無く、落ち着いた雰囲気だ。
ウエイターが笑顔で料理やシステムの説明をしてくれる。

3種類のメイン料理の中から1点選ぶ、その他に前菜・サラダ・デザート・コーヒー・シャンパン類は食べ放題、飲み放題である。
バイキング形式で料理が用意されているテーブルに各自とりに行く。
前菜もデザートも見事に盛り付けられている。
そして驚くほど種類が豊富だ。

グラスが運ばれ、はじめにシャンパン、それからオレンジジュースが注がれる。
この飲みものを「マモサ」という。
なんともフルーティでスムーズに喉を通っていく。
マモサを飲み、且つ食す。

暫くすると、ステージでジャズライブが始まる。
なんと、そのライブはJ-WAVEの元祖、94.7FM WAVEでのサテライト放送である。
ジャズギターの軽やかなメロディーが流れる。

気がつけば、ステージに置かれた放送機材用のテーブルの上に皿を並べ、ナビゲーターもエンジニアも、食事をその場で取りながら、なんとも楽しげに進行している。

こうして、3時間もの間、ワイワイガヤガヤと楽しんだ。
2日前まで失敗したことに嘆いていた自分が、いま、みんなと笑顔の渦の中にいる。

店を出ると、少し肌寒い風が火照った顔に心地いい。

かつてプランニングのいろはを習い、上司でもあった師匠、K氏の言葉を思い出した。
「すばらしい失敗、気高き失敗、誠実な失敗、カッコいい失敗には報いるが、平凡な成功は罰する」「カワムラ、10年もすれば、すごいことをやろうとして失敗した仕事しか憶えていないぞ」と。

自分の人生は自分で生きるしかない。
60歳を過ぎて人生を振り返ったとき、自分が何をしてきたかを言える自分でいたい。

「カチッ」と音がし、頭のスイッチが入れ替わった。

そして、また前を向いて歩いていこうと決めた。
成功するにせよ失敗するにせよ、人生はまるごと楽しむためにあるのだから。

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