本を読んでいて、気になる箇所に線を引く癖がある。
勿論、身銭を投じて買った本にである。
なんと勿体ないとのお叱りを受けるやも知れないが、この方法を採ってかれこれ10年になる。
本を読むことがあまり好きではなかった。
読み進めていけば面白くることはわかっている。
でも、そこまで我慢できない。
まどろっこしいし、眠くなる。
ともかく、身体を動かさずじっとしていることが苦手だった。
あるとき、図書館で借りてきた本のなかにオレンジ色の蛍光マーカーで線が引かれた箇所を発見した。
いまや絶版となった小野二郎著作集の「書物の宇宙」という本の中で、である。
不届き者である。
しかし、その時、なぜかそのラインが引かれてある箇所が気になり読んでみた。
たしか、装飾文字に関しての記述だったと記憶している。
読んで、なるほどと理解できた。
マーカーでラインを引いた御仁の想いもなんだか共有できた。
こんな読み方もありだな。と。
その後、しばらくして購入した本にマーカーを引くべく用意し読み始めた。
初めは、どこに引いたらいいのやらウロウロと数ページ読み進めたかと思うと、引き出した途端、今度はあらゆる箇所にマーカーを引かないといけないような気分になり、気が付いたらページがオレンジ色に染まっていた。
ラインを引くにもそれなりにコツのようなものがあるのだ。
まずは、なるほど、文章にすればこういうことかと腑に落ちたところを中心に線を引いた。
しかも、マーカーを引くという身体行動を伴うことで眠くなることもない。
こうして,気が付けば、おもしろいことに本のほうから自分に近づいてきているように感じた。
同じ書籍を二度読むことはめったにない。
しかし、ときどき本箱を眺め、気になった本を手に取る。
そして、なんとなくパラパラとページを捲る。
そんな時、かつて引いたラインの箇所を拾い読みすると、また新たな発見がある。
なぜ線を引くほど重要と思えたのかを思い出す。
あるいは線を引いていないところを眺めているとなぜ、あまり関心を持てなかったのかと自問できる。
つまり、再読は過去と現在を結ぶ自分自身との対話でもあるのだ。