秋晴れの昼下がり、妻と古くからの町並みが残る下町、台東区の谷中に出かけた。
いままで、行きたいと思いながら行けずにいた街だ。
この日、友人のYさんとそのお友だちの計5名での散策である。
午後二時、地下鉄三田線白山駅の傍にある小さな公園からスタートした。
古くからの民家が軒を連ね、そしてお寺も多い。
その中に、小さなギャラリーやお店がぽつぽつと点在している。
立ち止まっては、ギャラリーで作品を鑑賞し、次にお店を覗く。
こうして、ぽかぽかとした日差しの中、キョロキョロしながら、のんびりと歩く。
当り前のことだけど、急がずに歩くのは気持ちがよい。
こんな気分になるのは、久しぶりだ。
ともすると、自分の気持ちや行動が、人よりも先へ先へと進み、知らないうちに相手を置き去りにしてしまうことがしばしばある。
なぜ、そんなに急ぐのか。
自省を込めて言えば、相手に対しての思いやりに欠け、自分のペースになってしまうから。
言い訳であるが、慣れがそうさせる。
さらに、都市生活者の習いということもある。
都市化するとは、何かを移動する時間の短縮と凝縮の結果ということである。
より速く効率的に出来ることにこそ価値がある、と。
普段の緩やかな時間を限りなく約め、便利さを求める。
こうして、スピードが加速し、非日常という時間によって支配される。
気が付けば、空は夕焼けに染まり、商店街は夕餉の支度に買い物をする人々の活気であふれている。
谷中は、東京という巨大な都市の中にポッコリと空いた窪みのような場所に思えた。
そして、この界隈には日常という緩やかな時間がたしかに流れていた。