猫と暮らしている。
彼女の名前はリズ。
もう、10年も寄り添ってくれている。
外には出していない箱入り猫である。
住まいと兼用のアトリエ(仕事場)で、日がな一日を過ごしている。
人間以外の生き物がいることは、居心地がすこぶる良い。
なぜだろう?
おそらく、無理矢理にでも、余白のようなものが生まれるからではないか。
もし、寸分の隙もなく、作業に追いまくられていたら、効率は良いのかもしれない。
でも、そんなやり方が長く続くとはどうしても思えない。
たしかに、全てがなにか一色に彩られているのは、俯瞰で見れば統一がとれていて、
ある種の機能美のようなものがあるだろう。
でも、その美しさに寄って見れば、随分と窮屈なものではないか。
リズがいたずらを仕掛けてくるときは、だいたい決まっている。
スタッフが作業していようがいまいが、お構いなしに動き回る。
例えば、タイピングをしていれば、わざとにやっているとしか思えないのだが、
キーボードの上をゆっくりと横切りながら歩いていく。
例えば、打ち合わせをしているテーブルに飛び乗り、寝転がり、企画書をバラバラ
に散らかす。
まるで「こんなことをしたら、困るでしょう、分かっているわよ」と言わんばかりに。
納品が切迫し、苛つく時もあるが、概ねスタッフも慣れているので、あまり気にも留
めず、フワフワしたリズを抱いたり、撫でたりしてなだめている。
ある時、彼女の相手をしていて、気がついたことがある。
実はリズのこうした行動が、焦っていたり、気分が硬直している場の空気に一呼吸、置
かせてくれていることに。
もちろん、彼女にはそんな思惑はないであろうが。(否、すべて分かった上でのことかも)
リズにはこれからも、少しだけ作業の邪魔をしてもらいながら(笑)、仲良く寄り添って
いて欲しい。