第558号『無常』

【残雪に映る人影】
【残雪に映る人影】

春は別れと出会いの時でもある。
今週始め、父の一回忌法要のため弘前に帰省した。
菩提寺のある寺町、禅林街は津軽藩の菩提寺長勝寺を正面に据え33の曹洞宗
の寺が、左右道沿いに並ぶ。

法要を済ませ、塔婆をリンゴ畑に隣接する墓に供えるため、移動。
雲ひとつない快晴。
岩木山はまだ、しっかりと白雪を戴きながら優麗な姿を見せている。

手を合わせた後、ふとリンゴ畑に目をやると、ポツポツと淡い緑が点在して
いる。
なにかと、近づいてみた。
それは雪まだ残る地面から、力強く新たな生命として芽吹いてきた、蕗の薹
(ふきのとう)。

「ねがわくは 花の下にて 春死なむそのきさらぎの 望月のころ」
西行の歌が脳裏に浮かんだ。

すべては生成し、消滅しつづける。
そして、常に現在のこの一瞬のみが唯一成立する。

春のうららかな陽気に、蘇る悲しみも、なんだか素直に受け入れることができた。

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