第565号『日本マーケティング塾開講』

【花は己が咲く時を知っている】
【花は己が咲く時を知っている】

少し先のことだが、想像するだに高揚と緊張を孕み、ワクワクとドキドキを感じる。

日本マーケティング塾(甲斐貫四郎会長・鳥居直隆顧問・三浦功顧問)は開塾以来
30年、すでに800名を超える卒塾生を数える。
まさしく、マーケティングを担う人材養成場の本山の1つといっても過言ではない。

毎回、名だたる講師陣と、日本を代表する各企業からの受講生とのぶつかり合いが
繰り広げられるという。
その末席に、ご縁があり此の夏、第46期講座「顧客関係性のプロモーション戦略」
担当講師として拝命した。

もちろん、テーマは企業ファンサイトの構築についてである。
起業以来、企業にとってこれから「ファンサイト」は必須になると言い続けて13年。
今回、またとない機会をいただいた。

第46期日本マーケティング塾開講の告知パンフレットにも講座概要を記載いただいた。
少し長いがその全文である。

————-ここから
「企業ファンサイトとは ーファンが集まるウェブマーケティングー」

ファンサイトの立位置

いまでは、当たり前のように受け止められていることですが、ウェブによるマーケテ
ィング活動はテレビ・ラジオ・新聞・雑誌などこれまでの媒体の顧客に対する活動の
範囲と顧客の購入態度に大きな変化をもたらしました。つまり、従来の媒体は、潜在
客または見込み客に対し商品やサービスの特徴理解・好意・信頼・購入意欲の喚起と
いった購入態度の初期段階の部分を担っていいます。 ウェブでは、こうした従来の
顧客との関係から、さらに深度の変化とそれにともなう購入態度の変化をもたらすも
のになっています。

すなわち、
1.試しに買ってみた
2.リピーターになる
3.その商品やサービスしか買わない
4.他人にそれを奨める
という変化です。

「顧客」はウェブコンテンツとの接触を経て、潜在客・見込み客から優先顧客、推奨
顧客へと変化します。つまり、特定の人々や集団に深く関わる場を共有することにより、
新たな信頼価値を築いていくところに、ウェブが本来持っている特性があるのではない
でしょうか。私たちが提案する「ファンサイト」はウェブのこの姿を端的に実現するも
のではないかと考えています。

企業担当者とのファンの共有化

ファンサイトを提案する機会が増えています。その理由のひとつはわかりやすさです。

例えば、「ウェブサイトに来てくれたお客さまに何かしたいから」と提案を求められた
ら、「それはファンサイトですね」と話がつながります。難しい専門用語で煙に巻くよ
うな理論構築した提案をする必要はないのです。ウェブのテクニカルな問題は置いてお
いて、お客様のやりたいこと(メッセージ)を話題にすることができます。
サイトに集まったユーザーは、企業やその商品に自ら近付いてきてくれたファンである
と言えます。サイトを運営する企業は、これまでそのファンをどう扱うべきか悩んでい
ました。
ただ、まったくの無作無策という訳ではなく、企業ももちろん漠然とではあるがアイデ
アはそれぞれ持っていたのだと思います。そんな漠然としたアイデアにファンサイトと
いう、フォーマットを提示することができました。だからファンサイトを紹介すると、
途端に話がわかりやすくなる。やるべきことが明確になるのだと思います。

事例としての旧キリン・シーグラム株式会社「ボストンクラブ」のファンサイト
『極楽クラブ』

ファンサイトの考え方を初めて試みたキリンのウイスキー、ボストンクラブのファンサイト
「極楽クラブ」の役割は、ボストンクラブという商品の楽しみ方を提供することにありまし
た。購入者へのアフターサービスになるのかもしれませんが、これは従来の広告ではできな
かった試みだと考えています。極楽クラブの事例は、メーカー(企業)としてユーザー
(ファン)に近づくことができた初めての試みです。
メーカーがユーザーを認識して、そこに近付いていく、これは企業が消費者と新しい関係を
結ぼうとする画期的な試みだったと自負しています。(「極楽クラブ」はメルマガ会員17万
人を集め、当時、マーケティング誌・宣伝会議や、各種媒体に紹介され、話題になったファ
ンサイトです。)
また、ここにはメーカーがユーザーに直接商品を販売してこなかった日本市場の特殊性も
ひと役買っているのかもしれません。メーカー→流通→消費者という商品流通の構造の中
で、企業からはユーザーのロイヤリティが見えにくくなっていた。ユーザーも、自らのロ
イヤリティを示すことができなかった。ファンサイトはこの溝を、既存の手法とは違った
アプローチで埋めることができたのです。

ファンサイトのポイントとは

ファンサイトは、企業とユーザーであるファンとの関係性にあると思います。実際に、極楽
クラブの運営では、ファンの反応に後押しされるかたちでコンテンツが発展していました。
ファンは企業の思い通りに動いてくれる存在ではありません。その関係は、つかまえようと
すると遠ざかる恋愛のような関係だと感じています。例えば、猪突猛進型で押しまくると必
ず失敗してしまう。想いを寄せる人とあえて距離をおいて思い続ける、深い思いやりのある
愛情に例えられる関係だと思います。
ただし誤解されやすいのは、ファンが熱狂的なユーザーだけを指すのだと勘違いされやすい
点です。私たちがファンと言うとき、それは熱狂的な車のファンのようなユーザーだけを指
すのではありません。
少数の熱狂的ファンが集まるサイトもファンサイトと言えますが、
物凄く詳しい人たちが集まっているために、ある程度の知識レベルに達しない人には壁が立
ちはだかってしまいます。
一方、今求められているファンサイトは、ファンと商品はお互い
に並んで対峙する関係を理想としています。ファンと商品が対峙するこうした向き合い方が、
押しつけでない、居心地のよい関係を生みだすのです。これはファンサイトの大きな特徴です。
「極楽クラブ」の退会率が非常に低かったという事実も、ファンとの「向き合い方」に理由
があると思います。「極楽クラブ」は17万件を越える登録者を抱えていましたが、退会率は
10%以下に留まっています。これは通常約20%の半分以下です。
また極楽クラブについて、
クレームや運営の大変さについてよく訊かれますが、ファンサイトはクレームの温床にはなら
ないというのが私の答えです。企業色の濃いサイトをつくればそれがクレームの発信源になる
可能性があります。
しかし、ファンと独自の向き合い方を実践するファンサイトは、ファンと
の間に居心地のよいサイトを作り上げます。「極楽クラブ」では、プレゼントキャンペーン
企画だけではなく、ユーザーが自由に書き込める掲示版も運営していましたが、深刻なクレー
ムは1件もありませんでした。不思議に思われるかもしれませんが、これは事実です。
ファンサイトというコンセプトが実現する企業とファンの関係は、企業風土や商品などさまざ
まな条件によって変わってきます。当然、向き合い方にはさまざまなかたちがあるはずです。
企業とファンとの「向き合い方」を導き出すのがファンサイトの最も重要なポイントになります。
————-ここまで

お知らせです。
倅、川村元気、企画・プロデュースによる映画『青天の霹靂』(劇団ひとり初監督作品)
5月24日(土)から全国東宝系で公開。ご高覧いただければ幸甚です。

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