第723号『他愛もない思い出だけれど』

【新聞のコラム】

先日、懇意にしていただいているS氏から封書をいただいた。
開けてみると、2月15日付日経新聞夕刊コラム、プロムナード(毎週水曜日担当
とのこと)に書いた「映画はなにでできているか?—川村元気」のコピーが、
手紙とともに同封されていた。

手紙には、「元気さんの記事が掲載されておりましたので、お読みになられたか
もしれませんが、念のためお送りさせていただきます。」と、丁寧な文章で綴ら
れていた。

最近、倅が、テレビ・雑誌・新聞などでお話しさせていただく機会をいただいて
いるが、そのいちいちを知るわけでもないので、こうして教えていただけること
は、とてもありがたい。

コラムの内容は倅が3歳の時、初めて観た映画体験と、その映画、スピルバーグ
監督作品の「E.T.」とのその後の関わりを綴ったものである。
読みながら、ボクもあの日の記憶が蘇った。

12月の年の瀬で、寒いがとても晴れた日だった。
そして、街がなんとなくザワザワと浮かれた気分だったことを。

そして、京急線日ノ出町駅で降り、伊勢佐木町のモールを通り、馬車道にあった
東宝会館(その跡地はいまホテルになっている)までの道のりを。

そして、暗がりの中、映像と現実が混濁した様子でE.T.との出会いに驚き、ボク
の手を握り、離さなかった倅の小さな手を。

そして、帰りに、日ノ出町駅前にあった不二家(いまは高層マンションが建って
いる)2階のレストランで、今さっき観た「E.T.」の話しをしながら、食事をした
ことを。

親子で共有した、他愛もない思い出である。
でも、その体験が、いまの倅を、そしてボクを形作っている。