第725号『顧客は商品を買うのではない』

【顧客視点の企業戦略 】

先週、アジャイルメディア・ネットワーク、藤崎実氏と徳力基彦氏の共著による
『顧客視点の企業戦略 アンバサダープログラム的思考』が上梓された。
期待していたが、その期待にたがわぬ内容である。

徳力氏とは、たしか4年ほど前、デジタルマーケティングのD2C社主催によるセミ
ナー会場ではじめてお会いした。
当時、経営戦略室長だったYさんから「川村さん、徳力さんご存知ですか?」と
言われた。
「いや」と答えると、絶対に会うべき人だと、紹介していただいた。
徳力氏とお話して、すぐに目指している考え方が同じベクトルの方だと感じた。

アンバサダープログラム的思考という考え方は、弊社の「企業ファンサイト」と
多くの点で重なる思考方法である。

アンバサダープログラム的思考とは何か。
「アンバサダー」を一言でいえば、企業やブランドを積極的に応援し、クチコミ
してくれるファンのことです。また、「アンバサダープログラム」とは、企業が
アンバサダーたちと一緒に行うマーケティング活動の総称を指します。
『顧客視点の企業戦略 アンバサダープログラム的思考』本書13ページより。

創業の2002年当初から、これから企業のマーケティング手法として顧客視点の
企業戦略としての「ファンサイト」を16年以上にわたり提案してきた身として、
力強い仲間が現れたような気がして、とても嬉しかったことを覚えている。

いま、この書籍が上梓されたことが、なんだか自分ごとのように嬉しい。

17年前、キリンシーグラム社のウイスキー、ボストンクラブのファンサイト
「極楽クラブ」の成功をベースに、これから企業は顧客視点に立ったファン
サイトを持つことが絶対に必要になる。
この考え方に賛同してもらえる会社と、もっともっと多く出会いたくて、ファ
ンサイト有限会社を設立した。

しかし、思惑どおりにはいかない。
ファンサイトとは何かを、いくら説明しても、従来のマス・マーケティングに
慣れている企業担当の方々にわかってもらえない日々が続いた。
本当に、顧客視点での取り組みに賛同してもらえる企業があるのか。
不安になり、ファンサイトを広めたいという、信念まで揺らいだ時もあった。

でも、今回こうして、徳力氏がしっかりとカタチにしてくれたことで、やはりこ
れまでの活動は間違っていなかったんだと、あらためて確信することができた。

そして、顧客視点に立ち、考え行動しはじめた企業の実例も次々に現れはじめて
いる。

例えば、ナイキはランナーのランニングを支援するスマートフォンアプリを提供
することで、「スポーツシューズを売る会社」ではなく「ランニングを楽しむ人
を支援する会社」になり、例えば、花王は「ピカ☆ママ コミュニティ」のよう
な新米ママの情報交換を支援するコミュニティを運営することで「一般消費財を
売る会社」ではなく「母親になったばかりで不安な新米ママを応援する会社」に
なった。
『顧客視点の企業戦略 アンバサダープログラム的思考』本書311ページより。

この他に、弊社が企画運営に参加している明光義塾のご父兄向けコミュニティサ
イト「メイコミュ」は単なる個人指導塾から、「わが子の勉強と成長に不安をも
つご父兄を応援する塾」になった。

さらに、「よなよなビール」「水曜日のネコ」「インドの青鬼」などのネーミン
グで知られる小規模醸造所のヤッホーブルーイングでは1000名もの熱狂的なファ
ンとの交流を通して、その魅力と知名度も売上も伸ばしている。

顧客は商品を買うのではない。
まさしく、その商品が提供するベネフィットを購入しているのだ。

こうした事例は、企業の大小を問わず、これから続々と出てくるだろう。
なぜなら「本当にお客様が必要としていることは何かを考え」、「お客様が抱え
ている問題は何かを知り」お客様が感動するような商品や体験を提供することが
できれば、お客様はその会社の商品やサービスのファンになり、友人や仲間を連
れてきてくれるようになる。
これこそが、企業とお客様が相思相愛の関係でいられる究極のカタチであり、こ
れから企業が存在する理由とは、この姿を実現するためだと言っても過言ではない。