すこし憂鬱な雨の降る午後、井筒和幸監督の新作『ゲロッパ』を観た。
映画が始まって間もなく、これはイケルな、との予感が当たった。
遠景の団地群を背に、中央に精悍で逞しい、まるで男らしさの記号そのもののような煙を噴き上げている巨大な一本の煙突の空撮。
そして、これでもかとBGMはジェームス・ブラウンの名曲「It’s A Man’s World」が流れる。
思い起こしてみるとなぜか、煙を上げている煙突が映し出される映画に出来のいいものが多い。
例えば、ロバート・アルドリッチ監督の遺作『カリフォルニア・ドールズ』では女子プロレスラーとピーター・フォーク扮するマネージャーが、巡業で移動する車の背後に煙突があったし、マイケル・チミノ監督の『ディア・ハンター』にも、そして、小津安二郎監督の『東京物語』にも、聳え立つ煙突が登場する。
言うまでもない楽しさ。
言うまでもない興奮。
言うまでもない熱気。
そして言うに及ばない反骨精神。
まさに男たちへの応援歌である。
ともあれ、『ゲロッパ』は上質なエンタテインメントムービーである。
収監を数日後に控えた羽原組組長・羽原大介(西田敏行)には、やり残してしまった事が二つある。
一つは25年前に生き別れてしまった娘・かおり(常盤貴子)に再会すること。
そしてもう一つは、大好きなジェームス・ブラウンの名古屋公演に行くこと。
「もう一回だけ、会いたかったなぁ…」と力なく呟き、もう組を解散すると言い出す羽原組長の横で、弟分の金山組組長・金山(岸部一徳)はある決心を秘め、数日後、子分の太郎(山本太郎)たちに命令を下す。
「いますぐジェームス・ブラウン、さらいに行って来い!」と。
こうして娘との再会、JBの誘拐?と、物語りは佳境へ向かう。
終盤、娘の危機を救うべく、歌い踊るヤクザの父、羽原組組長・羽原大介(西田敏行)の姿が感動的なのは、戦い続け、ぼろぼろになったその姿がまるで、わたしたちに「俺たちはぼろぼろだ、それでも立て」「それでもやり続けろ」と叫んでいるようにも思えるからだ。
人は他者を鏡にして、初めて自分の姿が見えてくる。
そして、相手と自分のことをどれほど理解しているかといえば、はなはだ悲観的になる。
それでも、精一杯信じ、立ち上がることでしか人生は前に進まない。
映画館から出ると、雨もあがり、ネオンの灯りが華やいだ気分にさせてくれる。
よし、「ゲロッパ(GET UP)」だ!