第794号『築38年』

【木々のある中庭で】

団地の理事会のメンバーとして、しんどい思いをしながら
1年を過ごした。
そして期も変わり、ようやく理事会から開放された。

ところが、ひょんなことから長期修繕計画のメンバーとし
て選ばれた。
なんてこった、これはなにかの罰に違いないと思った。
しかし、決まったことは仕方がない、やるしかない。

ここで議論することは、下水道管や外壁塗装といった近々
の修繕事項だけではなく、20年後30年後の団地の姿そのも
のを想定して修繕計画を考える会でもある。
こうして、さらに難行苦行が続いている。

ところで、僕が住んでいる団地は築38年。
建築家、槇文彦氏と彼に連なる若手建築家たちがデザイン
を手がけた街で、都市整備公団が(現UR都市機構)大規模
な住宅地として建造したものである。
完成当時、アーバンデザインの見本と言われていたそうで、
いまはモダンレトロ風?な街となった。
当初から団地の棟と棟の間も広く、ゆとりがあり、陽当り
や風通しの良い空間が、気持ち良く保たれている。

さて、長期修繕委員会としての現実に戻る。
問題はこの古い築年数の団地をどうするか?
一つの解として、壊して(コンクリートの耐久寿命は60年
から80年など諸説あってよくわからないが)高層住宅とし
て建て替える。
しかし、その一方で壊すのではなく使えるものは残す、と
いう方法もある。

例えば、いまでは希少な型のガラスや建具の取手を残す。
その一方で、キッチンや洗面などの設備は最新の技術・デ
ザインを入れる。
こうして、新しい部分と古い部分のバランスを考える。
新築ではできない空間づくりも楽しい。

だから、まずはいまから20年後(うまく行けば)30年後の
暮らしを僕なりに想像してみる。
こうして、時間軸を長く大きく捉えることで、団地の可能
性はだいぶ違った風景に見えてくる。

はじめて訪れたNYマンハッタンの建造物に驚いたことを思
い出した。
その、アール・デコ様式(1920年から30年台にかけて建造
された)の町並みは実に軽やかで優雅だった。
100年余り、NYの地は(厳密に言えば9.11までは)一度も戦
火に焼かれたことがない。
建造物はリノベーションされながら、きれいに現役のオフィ
スや住居として使われている。

NYのような町並み、とまでは望まないにしても20年後、団
地周辺の木々がさらに育ち、ちょっとした森林公園の中に
佇んでいる姿(古いけれど、手入れの行き届いた住宅群)
を想像することはできなくもない。

長期修繕委員会のメンバーに選ばれたことで、あれやこれ
やと面倒なこともあるが、こうして自分たちが住んでいる
場所を俯瞰して見ることで、日ごろの生活からでは思いも
つかない、20年後30年後の住まいの在りかたが垣間見えた。

そして、このメンバーになったことを楽しんでいる自分が
いることにも気がついた。